2009 Fiscal Year Annual Research Report
カナダ・インクルーシブ社会における差別―典型としての知的障害に関する基盤的研究―
Project/Area Number |
09J00640
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
下司 優里 University of Tsukuba, 大学院・人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 20世紀初頭 / 社会事業史 / 知的障害 / 補助学級 / 国際情報交換 / カナダ |
Research Abstract |
本研究は、20世紀前半のカナダにおける、知的障害問題の実態とその教育的・福祉的対応の展開過程を解明することを目的とする。初年度である本年度は、以下の2つを行った。1、一次資料に基づいた先行研究の検討を行い、本研究の検討課題を設定するとともに、入手すべき資料の抽出・検索を行った。20世紀前半オンタリオ州において知的障害問題に関与した団体、人物、および教育と社会事業の行政機関等の系統的資料について、平成21年7~8月にオタワ市の国立図書公文書館およびオンタリオ教育研究所書庫、平成22年1~2月にトロント大学図書館およびオンタリオ州公文書館において所蔵調査ならびに史資料の収集を行った。また、本研究に関連する研究分野の学会大会等研究集会に参加し、障害児教育史、社会事業史、カナダ教育の主たる研究者との討議を通して、課題の設定や方法の妥当性について検討した。 2、20世紀初頭にカナダで先駆的立場にあったオンタリオ州において、精神薄弱者政策を主導したH.マクマーチーに焦点を当て、彼女が実現した精神薄弱学級構想の経緯と背景を究明した。彼女はとりわけ公立学校について、精神薄弱の早期発見手段としての公立学校医学検査の実施、および精神薄弱児への鑑別的機能と教育的対応を担う精神薄弱学級の設置を主張した。その背景には、公立学校における学業不振児問題と教育の非効率、および公立施設における精神薄弱入所者の処遇問題と経費の膨張といった当時の時代的課題に加えて、1900~1910年代における社会防衛論や精神薄弱者の婚姻・出産制限の提唱に見られるような、彼女の思想的基盤としての優生学の存在があった。こうした背景から、彼女の精神薄弱学級構想とその実現には、精神薄弱教育の基盤形成にとどまらず、精神薄弱者の早期発見・訓練と分離処遇による、社会問題の根本的解決という政治的意図が内包されていたと考えられた。
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Research Products
(2 results)