2011 Fiscal Year Annual Research Report
ニコラ・プッサンと同時代のローマの画家たちの物語画に関する研究
Project/Area Number |
09J00845
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
倉持 充希 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ニコラ・プッサン / 物語画 / 風景画 / フレスコ画 / モーセ / ローマ / 主題選択 / コレクション |
Research Abstract |
芸術家間の競争が激しかった17世紀前半ローマで成功したフランス人画家プッサンが、中型カンヴァス画を主力に据えて一定の顧客を得るまでの戦略及び造形上の創意工夫の解明を目指す本研究の第3年次は、彼が同時代画家に比して好んだとされる旧約聖書のモーセの主題に着目し、プッサン作《岩を打つモーセ》(エディンバラ、スコットランド・ナショナルギャラリー)を主たる作品研究の対象に据え、財産目録、ルーヴル美術館所蔵の準備素描、聖書・ヨセフスの著作の俗語版、テンペスタの版画等の調査を踏まえ分析した。その結果、フランス人顧客ジリエはローマ滞在中の1633-34年に、当時プッサンがアメデオ・ダル・ポッツォのために制作中であったモーセの物語画連作に想を得て比較的珍しい当画題を注文し、画家は版画等を参照しつつ構図を練り、ティツィアーノ作《アンドロス島の人々》(マドリード、プラド美術館)に登場する放尿する男児や、ラファエロ作《アルバの聖母》(ワシントン、ナショナル・ギャラリー)に基づく母子を描くなど著名なる先例に言及することで愛好家への配慮も示すなど、本作品がパリ在住の顧客へ向けてモーセの物語画を数多く制作する契機となり、また本作品完成後にペリエも同主題作品(ローマ、カピトリーノ美術館)を手掛けるなど、画題の再流行にも寄与した作品であることが判明した。同時に、ローマを活動拠点としたイタリアの人物画家の絵画総目録及びルーヴル美術館絵画部門資料室の文献等を調べた結果、アントニオ・カラッチ(ローマ、クイリナーレ宮殿、洪水の間)やタッシ(同上、パンフィーリ宮殿)のフレスコ画等に新たに同主題作例を見出すことができ、今後は同時代画家のフレスコ画装飾や風景画等も視野に入れ、コレクションにおけるモーセの主題の位置づけを踏まえた上で、顧客との合意に基づく画題選択の問題と絵画的特徴を併せて再検討すべきであるという見解が得られた。
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Research Products
(3 results)