2009 Fiscal Year Annual Research Report
相対論的ab initio分子動力学手法の開発と重原子分子反応への適用
Project/Area Number |
09J01103
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大谷 優介 Hokkaido University, 大学院・理学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | Ab initio分子動力学 / 相対論的効果 / 計算コスト / アゾベンゼン |
Research Abstract |
本研究では相対論的効果を考慮したab initio分子動力学(AIMD)法を確立し、具体的反応への適用を通して化学反応における相対論的効果についての一般則を明らかにすることを目的としている。しかしながらAIMD法は非常に多くの電子状態計算を要し、計算コストがかかるためその適用範囲が限られている。特に本研究では相対論的効果が重要となる重原子を含む分子系への適用を目指しているため、計算コストの削減が非常に重要になる。本年度はまず、計算コストの削減を目的としたプログラムの改良を行なった。 AIMD法の最大の利点はポテンシャル関数を必要とせず、全自由度を考慮できる点であるが、H-X伸縮運動などの速い運動を記述するためには小さなタイムステップを必要とし、膨大な計算コストを要する。そのような速い自由度がもし反応メカニズムにおいて重要でないならそれらを拘束することによって長いタイムステップを用いる事ができ、計算コストを大幅に減らす事ができる。そのような手法はRATTLEアルゴリズムとして分子動力学の分野で知られている。しかしながら、RATTLEアルゴリズムが状態間遷移を考慮したAIMDに適用された例は報告されていない。本年度はRATTLEアルゴリズムを自作のAIMDプログラムコードに実装し、テスト計算としてアゾベンゼンのS1(nπ*)状態における光異性化反応に適用し,計算コスト、トラジェクトリおよび、状態遷移確率の計算精度についての検証を行なった。アゾベンゼン光異性化は分子スイッチ、生体分子制御など応用例が多く、実験的、理論的に盛んに研究が行われてきたが、異性化機構については未だ多くの研究がなされている分子である。 RATTLEアルゴリズムを用いることにより、計算精度を犠牲にすることなく、コストを大幅に削減できることを示し、相対論的AIMD法の実現に向けての重要な課題の一つをクリアした。 また、本研究からアゾベンゼンの光異性化機構についての有用な知見が得られたため、Journal of Chemical Physicsへの論文を投稿し、掲載されている。
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