2011 Fiscal Year Annual Research Report
含水多糖膜における水和構造に基くプロトン伝導性の検討
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09J01330
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤田 大輔 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | βキチン / プロトン伝導 / 構造解析 / 繊維回折 / 中性子回折 / X線回折 / 水素結合 |
Research Abstract |
中性子構造解析の手法を改良しβキチン水和構造の水素結合様式について更なる調査を行った。取りうる4パターンの水素結合様式を、水素結合の数や分子の安定性から議論し最終的に一つの水素結合様式を提案した。判明した水素結合様式では、水を介した二つの結晶サイズにつながる水素結合が確認された。これらの連続的な水素結合がβキチンの高いプロトン伝導性を示す理由として示唆された。この水素結合様式にはもう一つ大きな特徴があり、これまでに報告されてきたセルロースを含む類似多糖でほぼ存在していた水酸基と環中の酸素の間での分子内水素結合が存在しなかった。この水素結合は分子の剛直性や耐溶解性に大きな影響を持つ水素結合と言われてきたが、それが存在しないでも安定化されている結晶の発見は、これまでの報告を見直す必要がある可能性を示唆する結果である。同時に繊維回折における中性子解析の重要性を示す結果となった。 βキチンの結晶が水系のみにおいて特殊な水素結合様式を持つかの確認のため、βキチンエチレンジアミン(EDA)錯体の構造決定を試みた。EDAはセルロースとも結晶性の錯体を形成する分子であり、上記のようなキチン中の分子状態を考察する上で意味のある分子である。X線により単位格子を精密化し、a=4.682Å,b=14-351Å,c=10.275Å,γ=96.24°と算出した。全ての原子をフーリエ差分法により直接的に決定することができ、GlcNacに対して一つのEDA分子を確認できた。精密化された構造中ではEDAはトランスの配位を取っており、セルロースIEDA錯体のシスの配位とは異なっていた。水素結合様式の特徴では一つの窒素原子がキチン骨格から強力に束縛されているが、その他の分子は弱い水素結合等によりやや安定化されていることがわかった。総じて水素結合の数は少なくなっており、EDAの存在状態としては不安定な状態を取っていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
βキチンの高いプロトン伝導性を調査するため、構造解析により水の存在状態と水素結合様式を確認しその要因を明らかにすることができたが、プロトン伝導性の改良のための化学改質や膜の安定化という実用段階に進むことはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
明らかにしてきた構造から、βキチンの水和結晶錯体ではO3位の水酸基周りの水素結合に特徴があることが示された。これらのO3位を化学改質により改変することにより、プロトン伝導性に与える影響を調査したい。またメタノール型燃料電池でも同様に、メタノール錯体の構造を見ることにより基礎的な知見を得たい。
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Research Products
(3 results)