Research Abstract |
通常,ヒトは入力した情報の全体(文脈)を優先的に処理し,部分(細部)の処理は追加的・意図的なものになることが知られている。しかしながら,自閉症を持つ人は,少なくとも視覚入力においては,このような強力な統合過程が働かず,部分の処理を優先的に行ってしまう傾向さえあるとされる。このような傾向を,弱い中枢性統合(weak central coherence.WCC)と呼び,自閉症の全てのモダリティにはこのWCCの影響があると考えられている。 そこで,自閉症を持つ人が,聴覚においてWCCの影響を受ける(あるいは受けない)ことを明らかにするため,注意を向けなくても出現するとされるMismatch negativity(MMN)と呼ばれるERP成分の,磁場における対応成分であるMismatch field(MMF)をMagnetoencephalography(MEG)を用いて測定することとした。MMN及びMMFは,なんらかの変化が生じたときに,不随意に発生する成分であり,その強度によって個人(あるいは群)の変化検出の精度を推定することができるとされる。そこで,文脈が変化する音列と細部が変化する音列を用意し,この音列を,参加者が動画を鑑賞しているときに,注意を向けずに提示することでMMFを測定した。 MEGの測定は,脳活動によって生じる微細な電位変化によって生じる磁場を測定することであるため,体動を比較的制限される。そのため,臨床群に対しては不快感を与える可能性があり,健常群のアナログ研究である程度臨床群の結果を予想し,洗練されたパラダイムを設定する必要があった。そこで,本年度はAutism-spectrum Quotient(AQ)質問紙によって,健常者を自閉症傾向によって群分けして検討を行った。その結果,文脈-細部の変化検出過程そのものというよりは,音列に対する慣れや神経不応が,自閉症傾向が高い群において生じにくい可能性が示唆された。現在は,この結果をもとに,より洗練した(短時間で計測可能な)パラダイムを設定し,臨床群に対する研究を計画している。
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