2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J01423
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤井 麻由子 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 仏教 / 対外交渉 / 王権 / 僧侶 / 冊封体制 / 南朝 / 北朝 |
Research Abstract |
本年度は、古代アジア世界の対外交渉に仏法が与えた役割を追究、かつ、南北朝~隋・唐代にかけての皇帝の受菩薩戒に着目し、中国における王法と仏法の関係を分析するとともに、皇帝の受菩薩戒が8世紀における天皇の受菩薩戒に与えた影響を考察した著書を発表した。 しかし、中国における王法と仏法との関係を通史的に理解するには、仏教伝播以降の状況についても整理しておく必要がある。そこで報告者は、王法と仏法の関係を遡って解明するため、3世紀以降の中国における阿育王信仰について整理した。その結果、南北の分裂期に、仏教が、王朝の正当性を強化する役割をしばしば果たしていたことが明らかになった(「阿育王伝説与江南諸帝」)。 また、中林隆之氏によって提唱された、「『師友』関係」を軸とした外交的折衝という視点をより広い範囲に適用、国家の枠組みを超えて存在していたかのように見える僧侶間の個人的な師友・同学関係が、時として国家の対外政策を補完する役割を担っていたのであり、そのような諸国間交渉は、古代・中世アジアの広い範囲で行われていたことを確認した(「古代アジア世界の対外交渉と僧侶」)。 さらに、仏教を鍵として構築された外交関係の特徴を把握するため、南北朝~隋・唐代の「冊封体制」について調査した。その結果、南朝が冊封・除授による国際秩序維持に熱心であったのに対し、北朝・隋・唐では冊封・除授が南朝ほどには重視されていなかったのであり、南朝の冊封体制下にあった日本が隋・唐から冊封されなかったことについては、そのような南北の差異を踏まえて再検討を加えるべきであることを指摘した(「隋唐の国際秩序と倭国」)。 以上、旧稿よりも時代的・地域的に広い範囲を対象として、王法と仏法、外交交渉と仏教の関係を解明することに努めたというのが報告者の研究概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した研究課題のうち、大部分に関する研究を終えることができた。さらに、著書の出版という採用期間中の最終目標も達成することができた。ただし、設定した研究課題のうち、いくつかは口頭報告を行うにとどまった。そのため(2)に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
三年間の研究を通じて、報告者は、仏教が古代アジアの対外交渉と王権に与えた影響について新たな情報を提供することに成功したと考えている。しかし、その過程で新たに浮上してきた問題もある。第一が、中国が仏教を自らの対外政策にどのように取り込んでいったのかという問題、第二が、9世紀以降、君主を菩薩と称えることがアジアの全域に拡大していくという問題である。中国の対外政策における仏教の役割を包括的に分析するのみならず、9世紀以降の国王(皇帝や天皇を含む)が仏教的権威を獲得していく事例を網羅的に追究することで、仏教が、古代・中世アジアの1)対外交渉と2)王権に及ぼした影響をより詳細に解明し、広域アジア史からみた日本史の特質を包括的に把握したい。
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Research Products
(6 results)