2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J01514
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
田中 裕也 同志社大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 三島由紀夫 / 生成論 / 主体性論争 / 草稿研究 / 文学理論 / アプレゲール / ニーチェ |
Research Abstract |
今年度の研究実施状況を下記に、二点に分けて報告する。 1、まず三島由紀夫「親切な機械」(1949年)のテクスト生成を調査し、論文化した。そして「日本近代文学」第84集に投稿し、掲載が確定した。具体的な内容としては、三島が資料をどのように選別し執筆を行ったかを検討した。特に三島の創作のきっかけになった事件資料を発見し、紹介した。そして当時流行していた「主体性論争」との関わりを指摘した。さらにこれまで三島研究で知られていなかった、三島の和辻哲郎『ニイチェ研究』(1942年)受容について言及し、その用いられ方を論じた。 2、次に三島由紀夫「青の時代」(1950年)の草稿調査・研究を行い、現在「昭和文学研究」に投稿中である。当時「アプレゲール」の代表的人物と見なされていた山崎晃嗣を、三島がどのように小説化しようとしたのかを検討した。三島は山崎に関する資料を扱いながらも、クレッチマーやカント哲学を用いて主人公を批判的に描いていることを明らかにした。これらの指摘はこれまでなされてこなかったことである。また三島は当時東京大学総長である南原繁を中心とした「道徳」に関する問題にも批判的に描いていることを明らかにした。このように三島は「青の時代」で「不道徳」と見なされた「アプレゲール」とともに「道徳」も批判していた。これは三島がニーチェ哲学の視点から道徳の体系自体を明らかにしようとしたテクストであったと論じた。 ここまで生成論を実践し、三島の草稿や初期ニーチェ受容を明らかにしてきた。今後もひきつづき生成論の探求をおこなっていくとともに、三島文学の同時代的意義を明らかにしていきたい。
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Research Products
(1 results)