2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J01519
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 一樹 北海道大学, 大学院・理学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 逆問題 / 偏微分方程式 / 音響散乱問題 / ディリクレ-ノイマン写像 / 囲い込み法 / 複素幾何光学解 |
Research Abstract |
障害物による音響散乱逆問題において、次のような進展があったので報告する。尚、この研究は、オーストリアのRICAM滞在中にSini博士と共同で行ったものである。まず、考える問題は次の通り。 均質な媒質内に未知障害物があるとする。これに向かって、遠方から音波の平面波を入射する。そして遠方で散乱波を観測すると、適切な条件の下で散乱波は遠方場と呼ばれる観測可能な量を用いて漸近展開される。よって考える問題は、遠方場を知ることにより障害物の位置と形状を求める(これを再構成と言う)となる。 この問題に対しては、ここ15年で様々な再構成手法が開発されたが、今回はその中でも池畠優氏による囲い込み法に注目する。囲い込み法とは、音波の伝搬方程式であるヘルムホルツ方程式の複素幾何光学解の特殊な挙動を用いて、数学的検査器を定義しその挙動から障害物を再構成する手法である。ここで、通常次の2つの仮定が置かれる。 (1)複素幾何光学解の相関数の等高面と障害物との接点はただ一つ。 (2)その接点におけるガウス曲率は正。 今回得られた成果は、これら2つの仮定を撤廃したことである。この結果は、囲い込み法が考案されてから10年以上もの間未解決であった問題であり、囲い込み法を用いた再構成手法に対して大きな進展を与えた。具体的には、対象とする障害物に関する"強"凸性の条件が取れ、様々な形の障害物の凸包を再構成できるようになった。また、最近発見された非線形な相関数を持つ複素幾何光学解を用いることによって非凸な部分の再構成が可能になっていたが、その再構成できるクラスを広げることになった。 この結果は、非透過障害物だけでなく、透過障害物に対しても得られたことに注意しておく。 以上から、本結果は再構成できる図形の範囲を広げるという幾何学的側面と、囲い込み法の証明を根本から変えるという解析的側面の両方から意義のある結果と言える。
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Research Products
(2 results)