Research Abstract |
本研究では,菌類の遺伝的多様性の影響がどのような影響を菌食性昆虫群集に及ぼすかを明らかにすること大目的としている。本年度は,1.菌食性昆虫の採集と標本整理,および,2.成果の発表を行った.1.については,サラワク州北部に位置する国立公園5か所のうち,ムル国立公園,シミラジャウ国立公園,ニア国立公園の3か所において,2011年2月から3月にかけて,Ganoderma australe菌子実体および菌食性昆虫の採集を行った。その結果,約100個の子実体から約600個体の甲虫を得た。現在甲虫の同定を進めており,少なくともCarabidae, Endomychidae, Erotylidae, StaphyliniidaeおよびTenebrionidaeに属する昆虫種が確認されている。来年度の早い段階で残り2か所の国立公園での調査を行ったうえで,甲虫の種同定と菌類の分子同定を進め,解析,発表を行う。 2の成果発表については,本の執筆と国内外での学会発表を行った。本では,熱帯林の菌類の多様性と生態について総説を記し,自らが行ってきたランビルヒルズ国立公園での生態学的研究や人為活動の影響評価などについて述べた。また,昨年度までにサラワク州で得てきた菌食性昆虫および菌類の種同定を進めた結果,同地域で優占的な菌食性甲虫のほぼすべてがGanoderma属菌を利用していることが明らかとなった。温帯や亜寒帯地域では優占的な甲虫は様々な菌類に対してそれぞれ特殊化していることを考えると,熱帯地域では甲虫の資源利用様式が温帯などとは異なることが明らかとされた。この成果は,日本昆虫学会において発表された。この他に,国際菌学会議においてGanoderma australeの遺伝的多様性に関する発表などを行った。
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