Research Abstract |
本年度は,文化遺産セクターが所蔵する多様な資料を統合的に管理し,その利活用を促進する手法として,公的データの共有技術として広まりつつあるLinked Dataに着目し,館種を横断した文化遺産メタデータのLinked Data化について,調査・分析を行った。方法として第1に,昨年度明らかにした博物館図書室の実態から,博物館の図録を介して博物館と図書館の資料をリンクさせる手法を提案し,実現の可能性を測るため,1)図録の所蔵・流通状況,2)図録内のメタデータ,3)図録自体のメタデータについて調査した。この結果,所蔵・流通状況に関して,1)灰色文献ながら一般図書に分布が相似している,2)大都市と大規模大学・図書館・博物館への集中傾向がある,3)約3%の機関で全タイトル網羅可能である,と明らかになった。また,メタデータに関して,図録内では,1)博物館資料の記述形式は凡そ3種類に集約される,2)図書館資料の記述は半数程度に存在する,とわかった。そして図録自体のメタデータは,その所蔵状況から作成機関が限られるため,事実上の標準が生じている。第2に,標準化の遅れが指摘され続けている博物館資料のメタデータに関し,1)Web公開されたメタデータの現状分析,2)Web公開されたメタデータの機械的なLinked Data化によって生じた問題点の整理,を行った。この結果,1)記述項目数や記入率は機関ごと・種類ごとにばらつきがある,2)記述項目数は最大でも図録内の形式と同程度である,3)記入ミスやテストデータが残存したまま公開されている,4)項目の明示が少ないために不正確な変換が行われ,人手での修正も困難である,とわかった。結論として,現状では機械的に博物館資料メタデータをLinked Data化しても利用には適さないことと,Linked Dataの修正・補完に図録が有効な可能性があることがいえる。本年度の成果と前年度の成果を踏まえ,Linked Data化された文化遺産メタデータについて質的評価実験を行うため,既存の博物館業務用システムを改修する環境を整備した。
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