2009 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯産マダラチョウ類の系統分類学的研究に基づく多様性と温暖化による分布拡大の解明
Project/Area Number |
09J02270
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
橋本 恵 Kyushu University, 比較社会文化研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | コモンマダラ属Tirumala / 雄性器官 / 微細構造 |
Research Abstract |
マダラチョウ亜科のなかでもとくにコモンマダラ属Tirumalaは外観だけでなく雌雄交尾器形態が酷似するため種の識別が困難であり、これまで本属全種にわたる包括的な分類学的研究はほとんどなされていない。そのうえ、本来熱帯性である本属のうち4種が、近年国内でも『迷蝶』として多数報告されるようになってきている。しかし、本属は雌雄交尾器に基づく詳細な記載がなく、酷似種の同定が困難であるが故に、これまでの迷蝶記録も再検討する必要があると考えられる。そこで本研究では、本属の種の明確な形態的特徴や種間の系統関係、雄性器官の形態進化を解明するために、配偶行動に不可欠の雄性器官であるhairpencils、pheromone-transfer-particles(PTPs)の微細構造を含む形態情報、および分子情報に基づき比較検討を行った。hairpencilsは雄腹部末端にあり、PTPsを雌の前で散布する機能があり、PIPsは性標内で生成される雄のフェロモンを雌の触角に付着させて匂いの情報を伝達しやすくする粒子である。比較の結果、主に雄交尾器、hairpencils、PTPsの形態において形質状態の差異を見出した。そしてPTPsの形状は限られた空間(性標内)でより多くのPTPsを生産するため、大型で球状のものから小型で最も節約的な形に変化し、その町PTPsの形状に伴い適応的にhairpencilsの表面構造が変化したという可能性を示唆した。本属内の種間あるいは外群との間に見られるミュラー型擬態による生存戦略は適応的と考えられるが、一方で同種内の異性間認識を困難にし、誤認によるPTPs損失のリスクも生じていると考えられる。本属はこのリスクを減らすために、PTPsを節約的に長期間にわたって利用できるように雄性器官を進化させた一群と推論した。また今回得られた結果は、これまで困難だった酷似種の同定や形質評価をより確実にするだけでなく、日本における本属の迷蝶4種の同定を容易にし、それらが由来した産地を含むより正確なデータを得ることができるため、近年のチョウ類の北進現象の実態解明にも貢献できると考えられた。
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Research Products
(2 results)