2011 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍血管特異的な細胞内侵入抗体の創製とその新規抗腫瘍血管療法への展開
Project/Area Number |
09J02423
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉川 舞 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | がん治療 / 抗体 / 腫瘍血管 |
Research Abstract |
本研究では、ファージ表面提示法とPSIFを用いたスクリーニングシステムを融合することで、近年次世代型の抗体医薬として期待されている抗体薬物複合体(ADC)の開発に有用な細胞内侵入抗体の迅速かつ簡便な単離技術の確立を試みた。効率のよい癌治療標的として注目されている腫瘍血管内皮細胞上に発現するVEGFR2とRobo4を標的分子とし検討を行った結果、数億種類もの多様性を有する免疫ファージ抗体ライブラリの中から簡便な評価系により強い細胞内侵入活性を有する抗原特異的抗体をわずか2週間という短期間で単離可能なハイスループットなスクリーニング法の開発に成功した。本研究で確立した細胞内侵入抗体単離技術は、既存の技術と比較して圧倒的なスループットを誇り、現在待望されているADCの開発を一気に加速するものと考えられる。 また、単離したVEGFR2及びRobo4に対する細胞内侵入抗体は、既にADCとして臨床応用されている抗体とほぼ同等の細胞内侵入効率を有する極めて細胞内侵入活性の強い抗体であることが明らかとなった。さらに、単離したVEGFR2及びRobo4に対する細胞内侵入抗体はin vivoにおいても確かに腫瘍に集積していた。また、そのPSIF(抗がん毒素)融合タンパク質を腫瘍モデルマウスに静脈内投与したところ、これとほぼ同等の抗原結合性を有する細胞内低侵入抗体では全く抗腫瘍効果が認められない投与量で顕著な腫瘍増殖抑制効果を示したことから、腫瘍ターゲティングにおける腫瘍血管特異的な細胞内侵入抗体の有用性が示された。 さらにRobo4を標的にした抗体はVEGFR2を標的にした場合と比較して腫瘍組織への分布量はほぼ同等であるのに対し、正常組織への分布は少なく、ネガティブコントロール抗体と比較しても正常組織への有意な集積は認められなかった。本研究はRobo4を標的としたがん治療の有用性を示した初めての知見であり、腫瘍により選択的に作用することから、副作用の少ないがん治療の実現に大きく貢献しうるものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では細胞内侵入抗体の単離法の確率とその有用性の評価を主な目的としていたが、実際には細胞内侵入抗体の標的の最適化にも着手し、副作用少なく有効な新規がん治療の開発に貢献しうる抗体を単離することができた。本研究で単離したRobo4に対する細胞内侵入抗体はRobo4を標的にしたがん治療の有用性を初めて証明したものであり、今後のがん治療研究に大きく貢献するものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ADCは標的分子依存的に強い細胞障害性を誘導しようとするがん治療戦略であることから、標的分子の発現分布が治療効果及び副作用の発現に直接的に大きく影響してしまう。事実、発売直後その劇的な有効性が実証される一方で、副作用が強く出ることが懸念されたため、発売中止となった医薬も存在する。これは既存のADC開発が極めてスループットが低い偶然性に頼った細胞内侵入抗体の探索に依存しており、優れた標的分子が存在したとしても自在に細胞内侵入抗体を単離することはできず、限られた標的に対してしかADCが開発できない状況にあったことも原因の一つである。この点で本研究で開発された細胞内侵入抗体の効率的な単離技術は近年次々と進展している標的分子探索技術と合わせ、有望な標的に対して素早く細胞内侵入抗体を単離し、即座にその有用性について明らかにすることを可能にする。従って今後は標的分子の最適化とその詳細な副作用解析を行い、その臨床応用を図ることが望ましいと考えられる。
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Research Products
(6 results)