2010 Fiscal Year Annual Research Report
国家によるリスク対処の可能性と限界-科学的不確実性に関する米国判例を手がかりに
Project/Area Number |
09J02514
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
横内 恵 大阪大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | リスク / 科学的不確実性 / 遺伝子技術 |
Research Abstract |
本研究は、環境リスク事象に対する国家的対処の可能性と限界のあり方、それらの判断方法を探求するものである。本年度は、ドイツにおいて研究を行い、ドイツ環境法におけるリスク、科学的不確実性の概念を明らかにすること、及び、それらが法的にどのように位置付けられているのかをまず明らかにすることを試みた。 ドイツには、警察法に由来し、不確実性"Unsicherheit"に基づく蓋然性により、危険、リスク(狭義)、残存リスクに3分類される、伝統的なリスク(広義)の体系が存在する。しかし、科学的不確実性の影響力の増大を受けて、科学的な知見の充足度という観点による"Ungewissheit"に基づき群類される新たなリスク体系の構築が必要とされている。 科学的不確実性という条件下では、科学技術のリスクを孕む製品や施設等の取扱いについての決定発見プロセス、すなわちリスク手続が必要とされる。このような行政法的リスク手続のモデルとして、本研究は、模範的な手続要素を多く提示しているとされる遺伝子技術法をとり上げる。 遺伝子組換え生物(以下、GVO)にかかるリスクにつき、本研究では、「放出」の段階を分析・考察の対象とする。同法においては、リスクの取扱いの判断に前置して、科学的なリスク評価(Risikoabschaetzung)がまず行われることとなる。このリスク評価のスキームはEUレベルにおいて議論されており、蓋然性を、GVO放出による環境作用へと分類することが定められている。ここに、ドイツ法におけるリスクの新体系の導入がみられると考えられるが、同法におけるリスク評価の手法や、リスクの分類の詳細については、本研究においてさらなる調査を要する。続いてリスクの取扱いを決めるリスク判断(Risikobewertung)のプロセスにおいて、放出許可の実体的な条件として、有害な作用の支持可能性の審査がなされるが(構成要件の側)、それと比例原則(法効果の側)との関係を分析・考察することも、今後の課題の1つとして見出した。
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