2011 Fiscal Year Annual Research Report
我が国における会計監査人の交代および監査契約の解除に関する多面的検討
Project/Area Number |
09J02623
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒井 絢美 京都大学, 経営管理研究部, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 監査人の交代 / 監査人の保守主義 / 大手監査法人 / 後任監査人 |
Research Abstract |
年度初めに提出した研究計画通り,前年度に引き続き,監査人の交代を行った企業(以下,交代企業)について,監査人交代前後における変化に関する記述的研究を行った。 本年度においては,監査人の保守主義(auditor conservatism)という観点から,理論的・実証的に監査人の交代を検証した。まず,理論研究については,監査人の交代が,監査人の保守主義が表れる契機の1つとなる可能性があるという理論仮説を提示した。一般に,監査人は保守主義に対するインセンティブを有し,現実にも保守的であるとされているが,その一方で監査人の保守主義は監査契約の解除および監査人交代の重要な要因ともなり得る。そのため,監査人の保守主義に対するインセンティブと監査契約解除のリスクの双方を鑑みると,実務上監査契約の解除が最も為されにくいとされる監査人交代直後において,交代後に新しく就任した監査人(以下,後任監査人)による,監査人の保守主義の財務報告数値への反映の傾向がみられる可能性があることが推察される。 実証研究については,主として交代企業の裁量的会計発生高(discretionary accruals)を交代前後で比較し,交代後により保守的な財務報告数値の計上が行われているかどうかを検討することにより,上記の理論仮説の検証を行った。その結果,後任監査人が大手監査法人である場合のみ,交代企業は監査人交代後に保守的な財務報告数値を計上する傾向にあるということを示す証拠が得られた。 近年,監査人の交代に係る問題についての議論が盛んになりつつある。2011年11月30日には,監査人の独立性を問題視した欧州委員会(European Commission)から,監査人の強制的交代を含む規則案の提案がなされたところであり,日本公認会計士協会も広く監査人の交代に着目している。本研究は,こういった議論について,理論的・実証的研究の積み上げという意味で貢献が果たせるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論研究・実証研究ともに年度の初めに提出した研究計画通りに研究が進んでいるため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り,監査人の交代について様々な側面からの更なる研究を行う予定である。とりわけ,次年度においては,後任監査人の監査意見形成に着目するつもりである。それによって,監査人交代時における監査人の保守主義の現出が,より深く捉えられると予見している。なお,現時点では,研究計画の変更は無く,また研究を遂行する上での問題点も特に見受けられない。
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