Research Abstract |
等尺性筋収縮時における活動部位での血流は,安静および筋弛緩時と比べると低下する.これは,筋が張力を発揮することによる周辺血管の圧迫が一要因と考えられている.生理的振戦は,筋が約10Hzの周期で緊張と弛緩を繰り返す.そのため,筋収縮時において,生理的振戦が発生することによって,活動部位の血流が確保されている可能性が考えられる.そこで,30秒間の最大掌握運動を対象に,手指の振戦と上腕動脈の血流速との関係を調べた.その結果,最大掌握運動時,手指における8~12Hzの振戦成分は,血流速と有意な正相関を示した.すなわち,振戦の成分が大きいほど,活動筋への血流が確保されている可能性を示唆した. また,このような,身体各部位の振るえが日常生活にどのような影響を及ぼすのかについて,等尺性筋収縮時における筋出力の変動(力変動)と立位姿勢の安定との関係について調べた.力変動は,ヒトが意図した筋出力を精確に調節する能力を評価し,筋出力をある目標値に一致するように調節する課題(力調節課題)中の目標値に対する筋出力の変動によって定量化される.研究の結果,立位時の主動筋である足関節底屈筋の力変動と立位姿勢の安定性との間に有意な相関関係が認められた.特に,最大筋力(MVC)の20%時おける力変動と片足立ち時における姿勢安定性,10%MVC時における力変動と両足立位時における姿勢安定性とが有意な関連性を示した.この強度は,各立位時において足関節底屈筋が発揮している筋活動とほぼ同じであることから,力変動と姿勢安定性との間に強度特異性が存在することを示唆した. さらに,力調節課題を一定期間繰り返し行うことによって,力変動が小さくなり,それに伴って立位時における重心位置動揺も小さくなった.これらの結果は,単にヒトの筋特性を調べただけでなく,運動や動作のパフォーマンスを円滑に達成させる方策についても示したと言える.
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