2010 Fiscal Year Annual Research Report
「快楽としての性行為」をめぐるポリティクス-避妊による快楽と生殖の分離に着目して
Project/Area Number |
09J03075
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 亜以子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 妾 / 明治 / セクシュアリティ |
Research Abstract |
平成22年度における研究上の重要な進展は、研究対象時期をこれまでの大正・昭和戦前期から明治期に拡大したことである。特に、「快楽としての性行為」のポリティクスという視点から当時の妾風俗のあり様に着目したことは、独創的な試みであるといえる。というのもこれまで妾に関する歴史研究は、その法的地位の変遷やそれに付随してなされた蓄妾の是非をめぐる議論に焦点が絞られてきたからである。同研究員は、妾と主人の関係に光を当て、この時期の妾が生殖のためというよりも、「快楽としての性行為」を提供するために給金によって雇用された色彩が強かったこと、さらにそのことが主人と奉公人の間に生じる「ご恩と奉公」の論理によって正当化されていたことを明らかにした。また、こうした論理は、色恋の対象として気に入った相手を選べた主人に対し、奉公としての意識が強かった妾の非対称な関係を補完することとなった。妾は、給金を与えてくれる主人の恩に対して、義理や感謝の気持ちをもつべきだとされ、そうした「気持ち」によって主人との間に単なる「売春」にとどまらない心的結合が生じると考えられていたのである。こうした明治期の状況は、避妊によって性と生殖が分離される以前の状況ではあるが、これまで解明してきた1920~30年代の状況に接続することで、避妊の登場によって生じた「快楽としての性行為」のポリティクスの歴史的変容をいっそう浮かび上がらせることができたといえる。
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Research Products
(2 results)