2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J03078
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
横川 大輔 Hokkaido University, 大学院・法学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 金印勅書 / 神聖ローマ帝国 / 国制史 / ドイツ近世 / ドイツ中世 / 皇帝 / 選定侯 / 法の認識と受容・流通 |
Research Abstract |
本研究は、1356年の二度の帝国集会において制定された諸規定の集まりが、神聖ローマ帝国の国制の凝集化とともに、「金印勅書Goldene Bulle」として、ひとまとまりの、それも神聖ローマ帝国の基本法典とみなされる過程の分析を通じて、当時のヨーロッパの法文化の変容過程の一端を明らかにすることを目的としている。研究初年度である今年度は、金印勅書にかんする研究のサーベイに従事した。具体的には、2009年1月に公刊されたDie Goldene Bulle.Politik-Wahrnehmung-Rezeptionを中心に、最新の研究動向を追いかけたが、その結果あきらかとなったのは、金印勅書が1400年ごろを境に写本数を増大させていくこと、また従来帝国史上の評価が低かった皇帝フリードリヒ三世の統治期(1440~1493)において、金印勅書の積極的な利用が見られた、という事実を確認したことである。また、この論文集においては本研究の方向性と重なり合う研究がいくつかあったが、そのなかでいまだ十分に説明しきれていない部分があることを確認した。たとえば、皇帝フリードリヒ三世とプファルツ選定侯フリードリヒー世の間でのプファルツ選定侯位をめぐるあらそいの際に、皇帝側が金印勅書規定違反に基づき、プファルツ選定侯の選定侯位を確認しなかったとしたホルツE. Holzの論旨があまり実証的ではない、というものである。しかし、写本流通をあつかったヘックマンM.-L.Heckmannの研究に対して、金印勅書の写本が孤立して作成されているのか、あるいはほかの写本とセットになって作成されているのか区別して考えなくてはならないというホルツによる指摘は、金印勅書をどのようなものとして、作成した側、あるいはそのように保存した側が認識していたのか、ということを明らかにする可能性があり、重要な示唆に富むものと思われる。このように研究上のいくつかの進展が明らかになり、今後この知見をもとにした研究を随時発表していく予定である。
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