2009 Fiscal Year Annual Research Report
オーストリア・東欧における「ユダヤ民族主義」と「イディッシュ文化」の発展
Project/Area Number |
09J03117
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 木綿 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 近現代ユダヤ史 / ユダヤ人問題 / 民族問題 / 労働運動 / 社会主義運動 / ナショナリズム / ブンド / イディッシュ |
Research Abstract |
本研究の意義は、19世紀末から20世紀にかけて東欧ユダヤ人の間で展開した「ユダヤ民族主義」と「イディッシュ文化」に関する状況を考察することで、従来日本では十分注目されてこなかった東欧ユダヤ人社会の政治・文化の諸相を明らかにするという点にある。具体的事例としては、ユダヤ人の社会主義組織である「リトアニア・ポーランド・ロシアのユダヤ人労働者総同盟」、通称「ブンド」を考察対象としている。この組織の活動と理念に着目することは、次の二点において重要性を持つ。第一に、「ユダヤ民族主義」といえば従来専らシオニズムが想起されていたのに対し、シオニズムに一貫して反対しながらヨーロッパ内でのユダヤ人の民族的存続を模索した「ブンド」の民族理念を明らかにすることで、ヨーロッパ・ユダヤ人の民族的志向の多様性を提示できることである。第二に、「ブンド」の民族的アイデンティティの基盤としてイディッシュ語・イディッシュ文化に着目しており、イディッシュ語資料を用いた東欧ユダヤ研究という日本でいまだ確立していない研究領域を開く可能性があることである。本年度の成果としては、第一に、世紀転換期のイディッシュ語・文化をめぐる政治的動向について、シオニズムに収斂されないユダヤ民族主義の一形態、「イディシズム」の理念を明らかにした。この成果は日本独文学会京都支部春季発表会において報告した。第二に、反シオニズムを唱えた「ブンド」の民族理念、すなわち、ヨーロッパ内でのユダヤ人問題の解決策、「文化的民族自治」の構想を明らかにした。この成果は社会思想史学会において報告し、さらに、独・墺において展開された民族理論との関連から考察したものをポスト・マルクス研究会で報告した。また、東欧ユダヤ人についての研究機関であるYIVO(Institute for Jewish Research)やブンド研究の第一人者であるNew York City UniversityのJack Jacobs教授を訪ね、資料や研究動向についての調査を行うことができた。
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Research Products
(3 results)