2009 Fiscal Year Annual Research Report
日常言語のコミュニケーションにおける聞き手協働型事態認知モデル―指示詞を中心に―
Project/Area Number |
09J03200
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 典子 Kyoto University, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 指示詞 / 指示性の喪失 / 間主観性 / 程度副詞 / 他者認知 |
Research Abstract |
本年度は、1.指示詞が含まれる主観的評価を表す表現と意味拡張、2.指示詞由来の派生語(フィラー)を中心に記述的研究を行い、研究発表(3件)・論文(2件)として発表した。 1に関しては、日本語のソ系指示詞を含む表現として「そんなに」、「そこそこ」を取り上げ、その中でも指示性が明確でない例に注目し、類義表現との比較により、これらの表現において他者の主観を考慮した間主観的側面が観察されることを明らかにした。これはソ系指示詞が聞き手に属する対象を指示するということからの自然な拡張であり、両者の間には連続性が見られることを示した。2に関しては、フィラー「あの一」「その一」の振る舞いを記述・分析し、これらのフィラーが情報の所有者が誰であるか(話し手か聞き手か)ということによって使い分けられていることを指摘した。 本研究は、従来の指示詞研究において恣意的に切り捨てられてきた周辺例・拡張例を中心に扱っており、指示詞の広い分布と豊かなバリエーションを記述し、典型例との関係を明らかにした点で重要である。これらの成果は、従来の指示詞研究の射程の妥当性を問い直す研究として意義深いものであると言える。くわえて、コミュニケーションの現場における主体的な聞き手の参与が軽視されてきたという言語現象の分析全般における現状に対して、日本語のソ系指示詞という聞き手が密接に関わる言語現象の分析を通して問題提起を行うと同時に、解決策の提示を試みているという点も本研究の意義として挙げられる。 さらに、これらの記述・分析を土台とし、共同注意という認知科学・発達心理学的観点と、他言語も視野に入れた類型論的観点から、指示詞のモデル化を行った(モデル化に関しては、次年度も引き続き行う予定である)。
|