2010 Fiscal Year Annual Research Report
日常言語のコミュニケーションにおける聞き手協働型事態認知モデル―指示詞を中心に―
Project/Area Number |
09J03200
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 典子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 指示詞 / 意味変化 / 間主観性 / 談話標識 / 共同注意 / 人称詞 |
Research Abstract |
本年度は、1.指示詞を含む表現における意味拡張、2.注意(attention)を土台とした指示詞の現場指示・文脈指示の統合的説明を中心に研究を行い、研究論文(5件)・研究発表(5件)として発表した。 1.に関しては、(i)指示詞を含む人称詞「こいつ/そいつ/あいつ」と、(ii)「指示詞+助詞」の指示表現「こりゃ(あ)/そりゃ(あ)/ありゃ(あ)」に注目し、研究を行った。(i)では、非現場指示用法において指示対象の範囲が拡大していることを指摘し、指示対象の拡大と指示用法との間に関連があることを明ら脳こした。(ii)では、縮約に伴い話者の評価の表出という制約が加わることを指摘し、さらに「そりゃ(あ)」には、話者の「もちろんである」という感情を表す談話標識的用法があることを明らかにした。 本研究は、作例中心の従来の指示詞研究においてはほとんど考察されてこなかった、いわば周辺例・拡張例を中心に扱っており、指示詞の特性である広い分布と豊かなバリエーションを記述しているという点で重要である。くわえて、これらの成果は、本研究が依拠する枠組みである認知言語学・認知文法理論において精力的に行われている主観性・間主観性研究を推進させるものである点で意義深い。 認知言語学・認知文法理論はこれまで、人間の認知と言語のかかわりを中心に扱っており、社会の側面への考慮があまりなされていないという指摘が近年なされている。今年度の研究成果としての発表には至らなかったが、本研究では2.の注意を土台とした指示詞の現場指示・文脈指示の統合的説明へ向けて、日本語のソ系指示詞という聞き手が密接に関わる言語現象の分析を通して、何らかの対象に注意を向けるというヒト個体の認知能力と、言語・非言語によって他者の注意を操作するという社会的側面への考察を行ってきた。この点も本研究の重要な意義として挙げられる。
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