2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J03208
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金 学淳 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 江戸文学 / 異国交流史 / 江戸文化史 / 戯作者研究 / 江戸情報史 / 江戸文人会研究 / 前近代の流通経済研究 / 勧善懲悪論 |
Research Abstract |
従来の馬琴研究は、戯作者としての馬琴とその作品を研究する作家論、作品論に傾いている。本研究は、馬琴が知的好奇心を持って接した異国との関係や創作の中で描き出した世界を馬琴研究の重要な課題として新たに導入した。これは、作品構想に影響を与えた典拠論研究、あるいは勧善懲悪の修正をも必要とするもので、単なる典拠論といった儒教的道徳観に縛られた作品論などの、従来の研究の偏りを打破することにも繋がると考えられる。このような研究を通じて作家と作品が大きな時代の「知」、あるいは文化の枠組みの中にあることを改めて検証することを目指す。 江戸後期において、商品流通経済の観点から創作活動を考えると、読本は商品である以上は大量に売るのが目的であるので、購買者の関心、・好奇心に訴える素材が必要となってくる。当隊,異国の船舶と異人が日本の沿岸に出現し、その驚きの風聞と情報が江戸にも入ってきていたが、その異国情報を利用して、江戸の読者の関心を惹くために、そういった風聞と情報をプロット、ストーリーに巧みに生かすことで、馬琴が商品としての読本を創作したことを本研究では明らかにする。読本の珍奇性を異国と悪を用いて、馬琴の読み本構想の特徴を明らかにした。それは実際の異国情報が虚構の異国表象に変化していくこと、異界あるいは異国と悪人の結びつきによってどのような悪人、怪物が表象されたのかである。つまり、文学作品において十九世紀初期の地理観の拡大が、中世的な伝統かつ宗教概念である異界と異国をない交ぜにした読本空間を作り出していることを検証するのが本研究の特徴である。さらに、本研究は馬琴とその作品をめぐる文学研究に留まらず、江戸後期における地理観の拡大、宗教的な異界概念の変化、好悪の両面にわたる多面的な異国認識など、近世から近代へ移行していく江戸後期の社会と文化の本質を考察する研究でもあった。
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Research Products
(9 results)