2010 Fiscal Year Annual Research Report
二条家撰集を中心とする鎌倉中・後期勅撰和歌集史の再構築
Project/Area Number |
09J03381
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村山 識 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 後嵯峨院 / 続古今和歌集 / 後宇多院 / 続千載和歌集 |
Research Abstract |
今年度は、二条家撰集の撰者および、その下命者である院・天皇の和歌を考察し、勅撰集に対する彼らの姿勢、または意識を明らかにしようとした。まず基礎作業として、私家集・詠歌集成が存在しない下命者として後嵯峨院、後宇多院の詠歌を集成し、撰者・下命者の詠歌の内容や傾向を検討した。後嵯峨院については、為家・真観等が詠じ、後にその卑俗さが非難された『新撰六帖和歌』を受け、ほぼ同様の題で「三百首御歌」を詠じており、後嵯峨院が、和歌の新風に対し積極的であったこと、またこの行為が、後に『新撰六帖和歌』の傾向を反省するに至った為家との見解の相違点になりうることが判明した。これは、前年度考察した『続古今集』撰集における、為家単独下命から撰者追加に至る過程に、後嵯峨院の強い影響力が働いていたとの考察への傍証となるとともに、ほとんど評価のない後嵯峨院の和歌を再考する上でも重要である。次に後宇多院には、三十首ほどの釈教歌が残存し、しかも真言密教に関連する詠歌の多いことがわかった。後宇多院と真言密教との関わりについては、近年多くの論考がなされているものの、和歌についてはほとんど顧みられていない。そこで、『続千載集』所載の後宇多院釈教歌につき、考察すると、後宇多院が、それまで詠まれることの少なかった真言仏教教典や空海著作を題として詠歌を行っていること、また特に「雑躰部」所載の長歌においては、真言密教的な把握のもとに、王権と仏教との関わりを詠み込んでいることが明らかとなった。このことは、真言密教に寄せる後宇多院の心情を明らかにするには、彼の和歌に対する更なる研究が必要不可欠であることを示唆する。また『続千載集』には、後宇多院の特徴的な釈教歌を、巻頭などに強調して配置しており、為世と後宇多院との共同歩調のうちに『続千載集』の撰集がなされたという、前年度までの考察を補強する結果が得られた。
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