2010 Fiscal Year Annual Research Report
浮世絵版画におけるプルシャンブルーの劣化が和紙に及ぼす影響
Project/Area Number |
09J03687
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
大原 啓子 (貴田 啓子) 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 浮世絵 / プルシャンブルー / 紙の劣化 / Feイオン / セルロース |
Research Abstract |
プルシアンブルー塗布ろ紙およびプルシアンブルー塗布楮紙を、浮世絵を単純化したモデル試料とし、これを湿熱加速劣化させることにより、紙の劣化挙動を調べた。劣化の最も大きな要因となるセルロースの分子量の低下は、Feイオンおよびプルシアンブルーの存在により大きく促進された。また、紙中の酸化物官能基量は劣化時間の経過とともに増加したことから、セルロースのヒドロキシル基が酸化され、酸化反応を主とする解重合の寄与が大きい。楮紙の分子量分布を観察した結果、セルロース以外の第2成分として、より低分子のヘミセルロースに由来するピークがみられ、このピークは劣化時間の経過とともに消滅した。したがって、ヘミセルロース成分の劣化が予想された。さらに、成分分析より、ヘミセルロースの主成分キシランの加水分解およびウロン酸の減少がみられ、ヘミセルロースの劣化を確認できた。また、Feイオンの影響により、その分解が促進された。カルボキシル基などの官能基の検出方法として、3種の測定方法を用い、この値を比較することにより、劣化の反応部位を検討した。紙の劣化を示す反応のうち、酸化反応はセルロースの表面近傍で、ヘミセルロースの分解反応は、より内部の領域で起こることが示唆された。従って、楮紙では、ろ紙には含まれないヘミセルロースの優先的な劣化により、ろ紙よりもセルロースの劣化が抑制され、物性の低下を遅らせることに繋がったと考えられる。
|
Research Products
(4 results)