2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J03939
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
杉田 浩崇 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 後期ウィトゲンシュタイン / 人格概念 / 内面の文法 / 道徳的実在論 / アスペクト知覚 / コミットメント / カベル / 不確実性 |
Research Abstract |
本年度は、後期ウィトゲンシュタインの哲学およびそれを援用した道徳哲学、脳科学における議論を検討することで、教育的関係における人格概念の機能とその倫理学的な特徴を明らかにしようと試みた。具体的には、(1)人格概念の核となる「内面」のあり様をウィトゲンシュタイン哲学から明らかにする、(2)「内面」の顕在化について、ウィトゲンシュタインのアスペクト論からその内実を示す、(3)J.マクダウェルとR.ブランダムの議論を手がかりに、道徳的判断の構造を「主体」や「内面」が問題化する場面に照らし合わせながら考察する、(4)P.ハッカーとM.ベネットの脳科学批判を手がかりに、教育学における脳科学の応用可能性を検討することで、目的達成に取り組んだ。 本年度で得られた知見は、次の四点である。(1)とりわけS.カベルの「acknowledgment」という概念に着目するならば、「内面」は帰属する者と不可分なかたちで帰属される存在のうちに見出されるが、それと同時に不確実性を伴う。(2)子どもの内面は、それを見いだす者同士のアスペクト(見方)の相違に応じて構成的に顕在化するとともに、各々のアスペクトは、その子どもとの歴史に密接に結びついている。(3)人格概念は事実記述的な部分と価値的な部分が融合している。道徳的判断は、共同体での言語ゲームに基づいてなされるが、それは同時にコミットメントの表明である。「私には…に見える」という留保の言明とともに、道徳的判断の相違とコミットメントによる言明者の態度表明がなされる。(4)人格に対しては脳とは異なり、論理的に「である」とともに「でない」をも適用することができる。このことから、人格との関係は単に物理的な事実を記述するのとは異なった、不確実性を内包したものであるということが示唆される。今後は、以上の成果を整理したうえで、境界事例(重度障害児、動物)についてウィトゲンシュタイン哲学の観点から考察を加え、教育学的な含意を引き出したい。
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Research Products
(7 results)