2010 Fiscal Year Annual Research Report
「契約の倫理学」としてのホッブズ政治哲学の再定式化
Project/Area Number |
09J04090
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
薮本 沙織 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ホッブズ / 社会契約論 / リヴァイアサン |
Research Abstract |
本年度は、トマス・ホッブズの(A)自由意志論争の検討、(B)「権威付け」理論の意味と意義の研究に取り組んだ。まず、(A)については、ホッブズとブラムホールの論争を概観し、『自由・必然・偶然に関する諸問題』を含めたホッブズのテキストを、彼の著作を年代順に分析することで、従来のホッブズ自由意志論の解釈(非常に素朴な両立論)を訂正する必要について指摘した。まず、ホッブズのものとされてきた、素朴な両立論についての彼のテキストを見た後で、そこから逸脱するような記述が、とりわけホッブズの社会契約論にとって重要な形で多数見受けられることを具体的に指摘した。とくに、1651年の主著『リヴァイアサン』では、道徳的責務の概念の説明が、その著作において初めて登場する「権威付け」理論を用いてなされていることを確認した。その上で、(B)「権威付け」理論の意味と意義の研究に進んだ。ここでは、ホッブズが1640年代には信約遵守の道徳的責務を、古典的両立論的な(つまり機械論的な)「自由」の喪失という形で説明していること、すなわち、信約遵守の責務自由の喪失から自動的に生じるのであって、その説明原理には道徳的要素がまったく加味されていないことを示した。しかしながら、1651年の『リヴァイアサン』ではこうした説明がなくなり、その代わりに、「権威付け」理論という新しい理論装置でもって、新しい議論を展開しようとしていることを、テキストを具体的に挙げることで明らかにした。そして、これは、ホッブズが人間の信約行為を、機械論的な運動論から切り離そうと苦闘していたことの証拠である可能性を指摘した。
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Research Products
(1 results)