2011 Fiscal Year Annual Research Report
「契約の倫理学」としてのホッブズ政治哲学の再定式化
Project/Area Number |
09J04090
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
薮本 沙織 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ホッブズ / 社会契約論 / リヴァイアサン |
Research Abstract |
昨年度までの研究によって、ホッブズが自身の著作活動を通して哲学を深化させ、1651年『リヴァイアサン』では、機械論、決定論は強固に保持しつつも、信約(契約の一種)の遵守(ホッブズ道徳論における責務)に関しては独自の説明原理(権威付け理論)を提唱しようとしていることを明らかにした。これは、ホッブズが人間の信約行為と、ホッブズ哲学の中心にあるとされてきた決定論から切り離し独自の理論を展開しようとしていたことを意味していると思われる。 まず、自然状態における信約の遵守(責務)の問題を集中的に扱い、ホッブズの責務概念は、先行研究の解釈とは異なり、自然法ではなく、各人の信約行為に根拠づけられるべきことを論証した。ここでは、ホッブズの自然状態が二種類に分類できることを、テキストに基づいた分析によって明確にし、従来よくみられたホッブズ解釈が完全なる誤りであることを示した。また、ホッブズ道徳論をめぐる先行研究を整理し、批判的に研究することで、先行研究上の論争の焦点が明らかになり、また、不十分であった点も明確にすることができた。 そして、権威付け理論を鍵として、ホッブズの哲学を再構成する作業を行った。この理論が本当にホッブズ解釈の鍵となりうるのかを、ホッブズのテキストを年代ごとに比較することで検討した。これらの検討を踏まえ、権威付け理論を鍵として、これまでとはまったく異なる新しいホッブズ道徳論解釈を描き出すことを試みた。その結果、権威付け理論によって、人間が自身の行為によって、自分の責務を生み出すという道徳のプロセスが可能となり、このプロセスは、現代倫理学で言うところの義務論として位置づけることができるのではないか、という可能性を導くことができた。これは、従来のホッブズ道徳論に対する安易な解釈に疑義を呈し、より豊かなホッブズ解釈をひらくきっかけとなりうるだろう。
|
Research Products
(1 results)