2010 Fiscal Year Annual Research Report
強相関有機伝導体および遷移金属錯体における超高速光誘起相転移の研究
Project/Area Number |
09J04458
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川上 洋平 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 超高速分光 / 有機伝導体 / 遷移金属錯体 |
Research Abstract |
昨年度までに製作した赤外12fs縮退パラメトリック増幅器を用いて、電荷秩序系有機伝導体(α-(ET)_2I_3)における光誘起絶縁体-金属転移の初期過程を明らかにした(Phys.Rev,Lett.,105,246402(2010))。具体的には、過渡振動スペクトルの形状を、定常状態の電子、振動スペクトルと比較することによって、電荷秩序の光融解(光誘起絶縁体-金属転移)は、i)電荷秩序状態にある電荷のコヒーレントな振動、ii)その電荷の振動と、ET分子中央部のC=C伸縮振動(ν_3モード)、ET分子のブリージングモードなどの分子内振動との相互作用によって起こることを明らかにした。強相関電子系における電子状態のコヒーレント振動や、その分子振動との相互作用を反映したファノ干渉が、励起後時間差を経て現れる瞬間を捉えたのは世界で初めての例である。また、これらの結果は、この物質における光誘起相転移が、電子応答(とそれと強く結合した分子内振動)によって駆動されており、格子(分子間)の変位によるものではないことを直接示す結果である。また、同様に電荷秩序系の有機伝導体である(θ-(ET)_2RbZn(SCN)_4)(以下θ-RbZn)やダイマーモット絶縁体(κ-(d-ET)_2Cu_2[N(CN)_2]Br)(以下κ-(d-Br))など異なる物質における実験も行った。θ-RbZnは、光励起によっては安定な金属状態はできない物質であり、一方、κ-(d-Br)は、分子間の変位による光転移が起こる物質である。これらの物質においては、α-(ET)_2I_3とは、異なる電荷、分子振動のダイナミクスが観測された。特に、κ-(d-Br)では、α-(ET)_2I_3において観測された電荷の振動は観測されず、直ちに分子内振動が励振されることがわかった。これらの違いは、電荷秩序相とダイマーモット相の格子系の結合の強さの違いを反映していると考えられる。
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Research Products
(16 results)