2009 Fiscal Year Annual Research Report
群集形成に伴う生態系機能の発現:微生物マイクロコズム実験による保険仮説の検証
Project/Area Number |
09J04688
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平尾 聡秀 Hokkaido University, 低温科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 生物多様性 / 生態系 / ニッチ相補性 / 生態的同等性 / 系統的ニッチ保守性 / 細菌群集 / 高山湖沼 |
Research Abstract |
本研究では、生物多様性が群集形成プロセスを通じて生態系機能に及ぼす影響を解明することを目的としている。具体的には、統計モデル・実験を組み合わせて細菌群集の形成プロセスを解析し、次の3つの課題に取り組む。 1.細菌群集の多様性に対する環境異質性と分散制限の相対的重要性を解明する。 2.細菌群集の系統構造に対する環境異質性と分散制限の重要性を解明する。 3.細菌群集の機能的多様性が生態系機能の安定性に及ぼす影響を解明する。 初年度は、中部・東北・北海道地方の高山・亜高山帯に存在する46湖沼から採取された湖沼表層水の細菌群集を対象として、細菌群集の形成プロセスの解明に取り組んだ。初めに、16S rRNA遺伝子を対象としたPCR-DGGEによって細菌群集の多様性を評価し、細菌群集の多様性の地理的分布を解析した。その結果、多様性の緯度勾配や種数面積関係はみられなかったが、入れ子分布(小さい群集が大きい群集の部分集合になること)が検出され、湖沼間の群集構成の類似性が距離とともに減衰するパターンがみられた。群集の多様性は水温・溶存有機炭素量と相関があり、これらの要因が環境フィルターとして地理的パターンの形成に寄与していることが示された。 次に、貧栄養湖(20湖沼)の表層水の細菌群集において優占するBetaproteobacteriaを対象として、特異的なプライマーを用いて湖沼ごとにクローンライブラリーを作成し、各湖沼の群集の系統的近縁度・系統的多様性を評価した。これらのデータについて、環境異質性と分散制限がBetaproteobacteria群集の多様性と系統構造に及ぼす影響を解析した。中立モデルに基づく解析の結果、湖沼のpHが環境フィルターとして作用し、細菌群集の多様性の変動を引き起こすことが明らかになった。また、系統モデルに基づく解析の結果、湖沼の生産性が細菌群集の系統構造を決定し、生産性に対する細菌の適応が群集形成に寄与する可能性が示唆された。また、どちらの解析でも、分散制限(空間プロセス)の効果はみられなかった。 これらの研究成果から、環境フィルターが生態学的・進化的なスケールで細菌群集の形成に寄与しているのに対して、空間的なプロセスは細菌群集の形成に寄与していないことが明らかになった。これらの成果は、国際誌への投稿を準備中である。次年度には、これらの研究をさらに発展させ、野外の細菌群集における機能的多様性の形成プロセスを解明し、細菌群集の機能的多様性が生態系機能の安定性に及ぼす影響の解明に取り組む予定である。
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