2010 Fiscal Year Annual Research Report
群集形成に伴う生態系機能の発現:微生物マイクロコズム実験による保険仮説の検証
Project/Area Number |
09J04688
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平尾 聡秀 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教
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Keywords | 生物多様性 / 生態系 / ニッチ相補性 / 生態的同等性 / 系統的ニッチ保守性 / 細菌群集 / 高山湖沼 |
Research Abstract |
本研究では、細菌群集の多様性が生態系機能に及ぼす影響を解明することを目的としている。 具体的には、統計モデル・実験を組み合わせて細菌群集の形成プロセスを解析し、次の3つの課題に取り組む。 1.細菌群集の多様性に対する環境フィルターと分散制限の相対的重要性を解明する。 2.細菌群集の系統構造に対する環境フィルターと分散制限の重要性を解明する。 3.細菌群集の機能的多様性が生態系機能の安定性に及ぼす影響を解明する。 第2年度は高山湖沼から採取された表層水の細菌群集を対象に、細菌群集の系統的多様性に影響を及ぼす要因の解明に取り組んだ。初めに、16S rRNA遺伝子を対象としたPCR-DGGEに基づいて塩基配列の決定を行い、細菌群集の系統的β多様性の地理的変動を解析した。その結果、系統的β多様性は湖沼間距離とともに増加することが明らかになった。このことから、地理的孤立(分散制限)の効果が進化的な時間スケールで細菌群集の形成に寄与していると考えられる。 次に、貧栄養湖の表層水の細菌群集で優占するBetaproteobacteriaを対象に、湖沼ごとにクローンライブラリーを作成し、各湖沼のBetaproteobacteria群集の系統的近縁度を評価した。初年度の研究では、湖沼の生産性とともに群集の系統的近縁度が増加し、生産性に対する細菌の適応が群集形成に寄与することが示唆されている。そこで、系統的近縁度の増加を引き起こすメカニズムを解明するため、系統的距離と機能的類似性の関係(系統的保守性)を解析した。系統的保守性をもつ機能特性の特定に至っていないが、培養実験により精度の高い機能データを測定し、系統的保守性のある機能特性を明らかにする予定である。 これらの研究成果から、進化的な時間スケールでは、環境フィルターだけでなく、分散制限が細菌群集の形成に寄与していることが明らかになった。この成果は、国際誌への投稿を準備中である。また、細菌群集の形成に寄与する機能特性を特定することにより,細菌群集のもつ生態系機能を明らかにできると期待される。今後、本研究を発展させ、細菌群集の機能的多様性が生態系機能の安定性に及ぼす影響の解明に取り組む予定である。
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