Research Abstract |
平成21年度(2009年度)の研究成果は,大きく2点に分けられる,第一の成果は,多角化企業に関する古典的研究を,意思決定の主体となる組織階層の違いに基づいて整理し直したことである.第二の成果は,理論的整理に基づいて事例の検討を行い,事業再編における自己強化メカニズムを明らかにしたことである.まず第一に,多角化企業の効率性について言及している研究は,効率性の源泉となる主体に応じて(1)経営者などの上位階層による投資効率性に着目している研究(Oliver Williamsonなど)と,(2)各職能部門などの下位階層が絶えず調整を行うことによって達成されるシナジーに着目している研究(Igor Ansoffなど)に区分されることを明らかにした.第二に,本社が事業内部にまで介入する東芝と,各事業に権限を委譲し,詳細には介入しない傾向のある日立製作所の2社をとりあげて,両社の相違点を検討する作業を行った.得られた結論を簡単に要約するならば,事業再編では,意思決定階層の違いによって,集権的な意思決定が自己強化される場合と,分権的な意思決定が自己強化される場合がある.上位階層による意思決定では,CEOの直面する事業ポートフォリオを処理できる範囲内におさまるように,簡素なポートフォリオを構築しようとする.ポートフォリオの簡素化によって,上位層は,コア事業の詳細な意思決定に介入することが可能となり,より集権化が進む.逆に,下位階層による意思決定では,ポートフォリオの複雑性は維持されるか,あるいは更に複雑になりうる.本社が事業計画に詳細な介入をすることはなくなり,各事業が自律的に再編を進めることになる.当初似たような事業構成であっても,再編の主体となる組織階層の違いによって,大きく事業再編の結果が異なることが明らかになった.これらの研究内容について,2009年度組織学会研究発表大会にて口頭発表を行った.
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