2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J04832
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
村上 徳樹 Otani University, 文学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | チベット / 自己認識 / ゲルク派 / カダム派 / サキャ派 |
Research Abstract |
本研究の目的は、後伝期チベットにおいて自己認識理論がどのように理解されてきたかという問題を思想史的観点から研究し、特にゲルク派の解釈における独自性はどこにあったのか、あるいはまた、彼等の解釈がチベット仏教思想史においていかなる意義を有していたかを検討することにある。 このような研究を遂行するため、本年度は研究で使用する基本テキストの入力および翻訳につとめた。特に近年公刊されつつあるカダム派の文献を中心に作業をすすめた。カダム派の文献は手書きのウメ字で記述されており、その判読は容易ではない。このような難点を解消するため、広島在住のチベット人僧侶にウメ字判読の直接指導を受け、ある程度読解可能となった。このような作業の結果、カダム派を代表するチャパ・チューキセンゲが著した論理学書のうちの自己認識関連箇所のテキスト入力を行うことができた。 また上記の作業と並行して、サキャ派のコラムパ・ソナムセンゲやセルドクパンチェン・シャーキャチョクデン、ポトン派のポトンパンチェン・チョクレーナムギェルといったゲルク派と対立する論師の自己認識解釈に関しても研究を行った。その結果、コラムパ、シャーキャチョクデン、チョクレーナムギェルなどは知覚の一つとして挙げられる自己認識知覚と単なる自己認識とを区別していることが明らかになった。このような彼等の分類はゲルク派の開祖ツォンカパ・ロサンタクパの影響を少なからず受けたものと考えられ、彼のチベット思想史上における影響の大きさを理解することができた。本年度は以上のような成果を得ることができたが、未だ公表するには至っていない。来年度も引き続き作業をすすめ、順次成果を発表していく予定である。
|