2009 Fiscal Year Annual Research Report
タンパクゆらぎを取り込んだ電子状態理論の開発と生体内反応の微視的理解への応用
Project/Area Number |
09J04886
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中谷 直輝 Kyoto University, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 遷移金属酵素 / 酸素活性化 / 水素活性化 / タンパクゆらぎ / 電子状態理論 / カテコールジオキシゲナーゼ / ヒドロゲナーゼ / 励起状態 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、遷移金属酵素が担う生体内反応の反応機構やタンパクの役割について、タンパクゆらぎの効果を含めて議論することである。本年度は、芳香族化合物の生分解反応において重要となる鉄(III)カテコールジオキシゲナーゼの酸素活性化反応と生体内で可逆的な水素活性化反応を触媒する単核鉄ヒドロゲナーゼについて、その活性中心の構造および電子状態について検討を行った。 まず、鉄(III)カテコールジオキシゲナーゼの酸素活性化反応について高精度電子状態理論に基づいた検討を行い、カテコールから酸素分子への直接的な電荷移動が酸素活性化の本質であることを明らかにした。また、実験で観測されている活性中心の吸収スペクトルを理論計算によって再現することに成功し、活性中心の電子状態に関する詳細な知見を得るとともに、タンパクとの静電相互作用によって活性中心の電子状態が大きく変化することを示した。これらの研究は、遷移金属酵素の反応を議論する上で高精度電子状態理論による検討とタンパク環境の効果を取り込むことが必要不可欠であることを示すものである。 次に、単核鉄ヒドロゲナーゼの活性中心の構造と電子状態について検討を行い実験で得られている赤外スペクトルと比較することで、活性中心は6配位の低スピン鉄(II)中心であることを明らかにした。また、水素活性化反応では、タンパクゆらぎの効果が重要になることが示唆されており、今後、タンパクゆらぎを取り込んだ電子状態理論を用いて水素活性化反応の反応機構を議論する予定である。 以上のように、本年度は遷移金属酵素の活性中心の電子状態やその反応について高精度電子状態理論を用いた検討を行い、電子状態とタンパク環境の静的な効果について議論を行った。次年度は、タンパクゆらぎを取り込んだ電子状態理論の開発とその応用からタンパク環境の動的な効果について議論を行う。
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