2010 Fiscal Year Annual Research Report
タンパクゆらぎを取り込んだ電子状態理論の開発と生体内反応の微視的理解への応用
Project/Area Number |
09J04886
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中谷 直輝 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 遷移金属酵素 / 酸素活性化 / 水素活性化 / 励起状態 / 電子状態理論 / タンパクゆらぎ / 鉄(III)カテコール錯体 / 単核鉄ヒドロゲナーゼ |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、遷移金属酵素が担う生体内反応の反応機構やタンパクの役割について、タンパクゆらぎの効果を含めて議論することである。本年度は、鉄(III)カテコール錯体のLMCT吸収スペクトルと電子状態、反応性との関係性、生体内で可逆的な水素活性化反応を触媒する単核鉄ヒドロゲナーゼの水素活性化機構について検討を行った。 まず、鉄(III)カテコール錯体のLMCT吸収スペクトルについて高精度電子状態理論に基づいた検討を行い実験スペクトルの帰属を行うとともに、その励起エネルギーと基底状態の電子状態、さらに酸素分子との反応性との間に密接な関係があることを明らかにした。また、タンパクや溶媒などの環境の効果によって電子状態が大きく変化することを示し、鉄(III)カテコール錯体の酸素活性化反応を議論する上で高精度電了状態理論による検討と周囲環境の効果を取り込むことが必要不可欠であることを示した。 次に、単核鉄ヒドロゲナーゼの水素活性化機構について検討を行った。活性中心モデルを用いて計算した反応の活性化エネルギーは実験値を大きく過大評価したが、分子動力学シミュレーションを用いて実験で観測されていない活性なタンパク複合体構造を予測し、ONIOM(QM/MM)法を用いてタンパク環境の効果を取り込んだ結果、反応の活性化エネルギーは減少することが示された。このことから、タンパクのゆらぎや環境の効果が反応に重要な寄与を与えていることが明らかとなった。 以上のように、本年度は遷移金属酵素の活性中心の電子状態やその反応について高精度電子状態理論を用いた検討を行い、電子状態とタンパク環境の効果について議論を行った。
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