Research Abstract |
イヌは,伴侶動物のみならず,盲導犬、麻薬犬などの使役犬として,ヒトと深く関係する動物であるが,イヌにおける繁殖生理学・生殖工学は他動物種に比べ立ち遅れている.イヌ繁殖分野の発展は,効率的な優良個体の作出を通し,我が国における慢性的な盲導犬不足を解決する糸口となり得ることから,社会的意義は高い. そこで,イヌにおける生殖工学技術の開発として,第一に各発生ステージの胚を凍結保存し,凍結感受性の差異を解析するとともに,胚移植時に動物へ与えるストレスを軽減し得る非外科的移植法により,凍結・融解後のイヌ胚に由来する産子作出を試みた.各発生ステージにおける凍結・融解胚の生存性は,16細胞期以前のステージでは高かったのに対し,桑実期および胚盤胞期では非常に低いことを示した.また,1~16細胞期の凍結・融解胚を非外科的に移植した結果,合計5頭の正常な産子が得られ,非外科的移植法の有効性を示した. 第二に,イヌ胚の凍結保存法を改良するため,イヌ未成熟卵子を用いて,凍結保護剤および支持体を検討し,凍結保護剤としてDAP213液,支持体としてクライオトップが有効であり,クライオチューブに比ベクライオトップは冷却速度が速いことを明らかとした. 第三に,イヌ未成熟卵子の体外成熟法を確立することを目的に,卵丘細胞の生存性と卵子の成熟能との関連性を,体外成熟が既に実用レベルにあるウシおよびブタと比較することで解析した.その結果,正常な卵丘細胞の割合および体外成熟率は,いずれもウシおよびブタに比ベイヌで低く,イヌ卵子における低率な体外成熟率は,卵丘細胞の質的低下に起因することが示唆された.さらに,イヌ卵巣内の卵丘細胞についてアポトーシスは観察されなかったことから,卵子採取時の環境が卵丘細胞の質的低下を招いたと推察される.
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