2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J05003
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
原田 敦史 Kokugakuin University, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 国文学 / 軍記物語 |
Research Abstract |
本年度は、当初の研究計画に基づき、『平家物語』の諸本流動について明らかにするため、屋代本・覚一本・延慶本を主たる対象として相互の関係についての考察を重ねた。特に、語り本系(前二者)と読み本系(後者)の関係についての考察に力を注ぎ、かねてから研究の基軸としてきた「物語の終結様式」をめぐる論考、巻五・巻六を対象とする論考、および巻八前半部の諸本本文についての論考の、計三本の成果があったが、三本ともに博士の学位請求論文の一部としたため、審査期間中の公表には至っていない。いずれの論考も、上記三種の異本が、それぞれの方法のもとに流動・発展してきたことを明らかにするものであり、特に巻五・六と終局部の双方において、「王法の歴史語り」を基点にして諸本の関係を捉えうることを示したのは、大きな成果であったと考えている。「王法の歴史語り」という枠組みの有無こそが二大系統を分ける本質的な差異であり、これを極度に強固にしようとして様々な要素を取り込む延慶本に対して、語り本はそれを脱ぎ捨てて、「平家の物語」へと変貌しようとする。この違いが、頼朝挙兵譚の有無や終結様式という、系統ごと、諸本ごとの特徴に大きく反映されている。 また、上記とは別に、屋代本の「大原御幸」をめぐる考察を進めている。屋代本を丁寧に読み解くことでその独自性を明らかにするとともに、その作業を通じて他諸本との関係にも論及しようとするもので、その成果として、屋代本的本文から覚一本へ、という従来の理解とは異なる新たな見取り図を提示することができると考えている。
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