Research Abstract |
平成21年度は,科学研究費補助金申請時の研究目的である「アリストテレス倫理学において,古代哲学研究としての水準を維持した研究成果をあげつつ,同時にその現代的意義を考察し,具体的で実効的な成果をあげ,提言を行うこと」に沿って,以下の研究活動に重視した.(1)まず,古代哲学と現代哲学の接点に関する研究書の翻訳作業を行い,出版に向けての最終作業に従事している.この訳書は,現代哲学の泰斗であるDonald Davidsonの最後の論文集であり,哲学の過去・現在・将来を論じたものであり,今後の日本の哲学にとっても示唆するところの大きい論集である.(2)また,脳科学と社会の関係を,道徳の自然本性の解明の観点から論じた英語論文"Moral neuroscience and moral philosophy : interactions for ecological validity"の執筆し,学術誌に掲載した.これは,哲学(とりわけ倫理学)研究が今後どのようなあり方が可能なのかという問題を,脳神経科学との接点という観点から論じたものである.(3)当該論文についてアドヴァイスを頂いたOxford大学のDr.Kahane氏(哲学),米国NIHのDr.Moll氏(神経科学)に論文を送付し,意見交換を行った.Kahane氏とは,渡英後に直に交流する方向で予定を調整している.(4)これと関連して,「哲学書を読む脳科学者たち」と題したコラムを,中村靖子(編著)『交響するコスモス(下)-脳科学・社会科学編「ミクロコスモスから環境へ」』松籟社,2010年3月101-101頁,に執筆した.これは,当該論文を日本語で,よりわかりやすくしたものであり,人文科学と自然科学の関係の一面を紹介したものである.
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