Research Abstract |
平成23年度は,科学研究費補助金申請時の研究目的である「アリストテレス倫理学において,古代哲学研究としての水準を維持した研究成果をあげつつ,同時にその現代的意義を考察し,具体的で実効的な成果をあげ,提言を行うこと」に沿って,以下の研究活動に重視した.(1)まず,博士論文の執筆,完成,提出である.これは,アリストテレスの道徳教育論の哲学的基礎を,彼の『ニコマコス倫理学』における重要諸概念(意志の弱さ,行為,運,友愛など)の論じ方のうちに見いだすという内容である.その意義は,彼の倫理学において重視されてきたこれら諸概念が彼の道徳教育論にどのように寄与しているのか,またなぜこれらの分析が道徳教育論にとって必要なのかを明らかにした点にある.(2)ついで,脳神経科学研究と哲学研究の関係について出版される論文を,最新の研究を踏まえたものに改訂し,よりよいものにしていることである.(3)さいごに,現代の教育のあり方に対する提言を,科学技術社会論学会において,おこなったことである.この提言では,アリストテレスによる市民教育が道徳の教育であらざるをえないことの分析を踏まえつつ,また,現代の科学技術倫理の教育がおもに大学などの高等教育機関でおこなわれていることを踏まえつつ,義務教育における科学技術およびその倫理の教育のあり方を,いわゆる理科教育としてではなく道徳教育として実施する必要と意義のあることが示されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」欄では,「…(1)アリストテレス倫理学・政治学を,道徳教育と市民教育の関係を見据えた「教育」の観点から捉え直す.(2/3)(1)を踏まえた上で,倫理・社会・教育の関係,脳科学の成果を含めた科学技術と市民・社会の関係,道徳の神経基盤の探求のあり方の是非など,今後検討が必要となる問題について包括的な観点から検討し,実効的な提言をおこなう.」ことを述べていた.1については博士論文として結実し,2/3については,科学技術社会論学会でのワークショップのオーガナズおよびそこでの提言として発表されたため.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策は,今後も引き続き「道徳教育」あるいは「人としての生き方を教育するということ」の現代における問題,ありうべき形,その社会的意義を,哲学,脳神経倫理学,科学技術社会論の観点から,より総合的に考察することである.
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