2009 Fiscal Year Annual Research Report
デイヴィド・ゴティエの道徳哲学を基盤としたリバタリアニズムの研究
Project/Area Number |
09J05046
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 俊介 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | リバタリアニズム / 倫理学 / デイヴィド・ゴティエ / 道徳の基礎づけ / ビジネス倫理 / メタ倫報学 |
Research Abstract |
今年度、報告者は、カナダの哲学者デイヴィド・ゴティエの道徳哲学における中心テーマである道徳の基礎づけとリバタリアニズムとの関係を探り、その成果を発表してきた。 まず、報告者は、ビジネス倫理において、道徳の基礎づけがさかんに論じられていることに注目した。ビジネスに道徳を持ち込むことは、経済に対する規制・介入としてビジネスパーソンらの自由を侵害することにつながるという非難がある。この点で、ビジネス倫理はリバタリアニズムの立場から批判されてきた。報告者は、以上の背景に基づき、ビジネスパーソンの自由を侵害しない道徳の可能性を探求した。 次に、報告者は、道徳の基礎づけという問いが現代道徳哲学においてどのように扱われているかを中心に探ってきた。そして、報告者は、道徳の基礎づけが、道徳とコンヴェンション(慣習)・エチケットとの区別を巡る現在のメタ倫理学上の論争にかかわることを明らかにした。これまで、デイヴィッド・ヒュームを例外にして、文化や個人の好悪とは独立した普遍的で定言的な要請として、道徳は慣習やエチケットとは区別されてきた。それゆえ、道徳の基礎づけには文化や個人の好悪がかかわらないとされてきた。しかし、現代メタ倫理学はまさにこの区別の妥当性を問題にする。この点に関して、コンヴェンション(慣習)の特徴である自生的秩序に早くから注目したハイエクら一部のリバタリアニズムの洞察は鋭いものである。 以上をふまえ、報告者は、道徳に対するデイヴィド・ゴティエの捉え方とリバタリアニズムとの関係に関して次のような考え方を見いだした。ゴティエの道徳哲学において、(1)市場経済における個々人の自由を尊重するかたちでの道徳観があり、(2)その道徳観は市場経済から生じるという意味では普遍的でも定言的でもない性格をもつ。リバタリアニズムは政治哲学上代表的な立場であるが「基礎がない」と批判される。リバタリアニズムに道徳哲学の観点から基礎を与える本研究はこの点で重要な意義をもつ。
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Research Products
(2 results)