Research Abstract |
私の研究は,総実代数体のゼータ関数およびL関数の特殊値,特にs=0における最初の展開係数の解析的表示(クロネッカー極限公式)と,その幾何学的解釈に関するものである.特に1次の係数を用いて定義される新谷の類不変量,および各無限素点に対応する因子が,スターク予想との関連において重要な意味を持つ.また総実代数体のL関数がある種の多重ゼータ関数を用いて表されることから,種々の多重ゼータ関数やその特殊値についても研究を行っている. 本年度は,多重ゼータ関数の特殊値(多重ゼータ値)の間に成り立つ関係式に焦点を絞って研究を進めた。特に,いわゆる多重ゼータ値(MZV)と等号付き多重ゼータ値(MZSV)の間に存在するある種の類似を主題として,以下のような成果を得た:(1)近藤-斎藤-田中の定理の精密化。この定理ではある種のMZVの和に関するBowman-Bradleyの定理の類似として,MZSVの同様の和がπの冪の有理数倍であることが示されていたが,その有理数部分を具体的に与える表示式を得た。 (2)1,2,3からなるインデックスを持つある種のMZSVに関する等式。これにより今富-田中-田坂-若林による予想が部分的に解決した。またZagierによるインデックス(2,...,2,3,2,...,2)のMZSVに対する公式を補完する結果として,(2,...,2,1,2,...,2)なるインデックスのMZSVに対する公式を与えた。(3)MZVとMZSVを補完する多項式の構成と,それらの間の関係式の研究。多項式のレベルで成り立つ調和関係式や,和公式および巡回和公式を示した。このように,MZVとMZSVに対して類似する関係式が成り立つとき,それらを補完する多項式の関係式を探す問題は今後の研究テーマとしても興味深いものである。
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