2009 Fiscal Year Annual Research Report
時間遅れの連鎖的形質変化がもたらす植物-植食者動態プロセスの解明
Project/Area Number |
09J05141
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高木 俊 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 表現型可塑性 / 間接効果 / 形質変化 / 補償生長 / スケール依存性 / ニホンジカ / ジャコウアゲハ |
Research Abstract |
表現型可塑性による形質変化が群集の構造や動態にもたらす影響は、群集生態学において近年注目されている課題の一つである。特に時空間的に大きなスケールでの実証研究は少ないが、小スケールでの現象と野外での動態を結びつけて考える上で必要不可欠である。「ニホンジカ-オオバウマノスズクサ-ジャコウアゲハ」系を対象に、植物および昆虫の形質変化が個体群の動態に与える影響を広域の野外パターンから評価した。採食後の補償生長による植物の形質変化の相対的な重要性はシカ採食圧の時間スケールによって変化することが予想されたため、長期的なシカ密度と短期的なシカ密度の指標化を行い、オオバウマノスズクサの量と質、ジャコウアゲハの個体数との関係性を一般化線形混合モデルにより解析した。林床に生育するオオバウマノスズクサの量や質は、シカ密度との関係性がみられ、長期的にシカが高密度で定着している地域ほど量が減少し、短期的にシカが高密度の地域ほど質の良い葉の再生長が盛んであった。ジャコウアゲハの個体数はオオバウマノスズクサの密度が高いほど多い傾向を示した。また、葉の再生長が盛んな地域ほど、オオバウマノスズクサの密度あたりのジャコウアゲハの個体数は高くなる傾向を示した。これらの結果から、シカからジャコウアゲハの個体数への間接効果は、資源の量の減少を介した-の効果と、質の向上を介した+の効果の2つのプロセスが関与し、各プロセスの相対的重要性は時間スケールにより変化することが示唆された。時間スケールの考慮は、密度と形質を介した間接効果の相対的重要性という基礎生態学的課題を解明する上でも、大型草食獣に対する生態系の応答予測という応用生態学的課題の解決においても重要であると考えられる。
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Research Products
(3 results)