2010 Fiscal Year Annual Research Report
マーラーの交響曲創作の美学的意義に関する研究-ジャンル概念の転換という観点から-
Project/Area Number |
09J05147
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
高坂 葉月 東京芸術大学, 大学院・音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | グスタフ・マーラー / 交響曲史 / ウィーン世紀末文化 / 音楽美学 / 全体性 / ジャンル研究 / 西洋音楽 |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀初頭ウィーンにおいて交響曲というジャンルがもっていたアクチュアリティを浮かび上がらせつつ、その文脈の中で、マーラーの交響曲創作の意義を再検討することである。平成22年度は主として、音楽以外の当時の文化的・社会的な状況とマーラーの交響曲の具体的な接点を見出し、それらが作品にどのように反映されているかを考察してきた。 マーラーを交響曲創作に駆り立てた動機を、当時の社会的・文化的状況との因果関係を説明することは困難であったが、その一方で、「交響曲」と題された彼の作品の特異な構成については、当時の社会との接点を具体的に指摘することができた。たとえば、今年度扱った交響曲第七番では、シンメトリックに配置された二つの夜の音楽〈Nachtmusik〉を、当時のウィーンで芸術の主題として好まれていたのみならず、フロイトによって体系化されもしたテーマ「エロスとタナトス」の表現として読み解くことができた。すなわち、この交響曲がシンメトリックな五楽章構成という、当時の交響曲としては珍しい構成をとっていることには、ここで表現された「エロスとタナトス」のテーマそれ自体の性質(対極でありながら不可分)が関係していると考えることができる。この研究により、解釈の手がかりが乏しく「難解」とされてきた交響曲第七番の解釈の可能性が広がるのみならず、この作品をウィーン的な文化的産物として具体的に解釈することが可能になると考えられる。
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Research Products
(1 results)