2011 Fiscal Year Annual Research Report
信託をめぐる国際民商事紛争のための法整備―信託関連法改正に伴う緊急課題―
Project/Area Number |
09J05169
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
八並 廉 九州大学, 法学研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 国際私法 / 信託 |
Research Abstract |
信託に関する国際私法規則については、これまで先行研究が比較的少数にとどまってきたことから、一層の研究蓄積が期待されていた。そこで、本研究は、信託に関する国際私法規則の明確化を研究目的としてきた。本年度に実施した研究の成果は、下記のとおりである。 まず、これまでの調査の結果、欧米における先行研究のほとんどが、英米法諸国の国際私法を基礎にするものであり、大陸法諸国の国際私法の内容を前提とする議論はほとんど存在しないことが明らかとなったため、本研究ではこの研究欠缺を埋める取組を行った。その成果については、国内外で開催された各種研究大会において積極的に公表し、外部からのコメントを本研究に反映させるよう努めた。 さらに、近年重要性を増している問題として、アジアにおける国際信託に関する議論状況・立法状況についても検討を加えた。例えば、中国においては2011年4月に国際私法の法典が施行されており、その中で信託準拠法決定規則が明文化されているため、本研究はその内容についても検討を行い、その成果を研究大会にて報告した。このように、近年のアジアの動向について比較法的に検討した研究は、国際信託研究の分野ではこれまで例がなく、新規性の高い業績である。 最終的に、これまでの研究成果に基づき、博士論文を執筆した。当論文は、多様化した現代の国際信託実務を前提とすると、英米法諸国の伝統的信託実務のみを基礎として構築されてきた従来の信託準拠法規則には限界があることを明らかにし、現代的視座から信託の国際私法規則を再構築した。 本研究の成果は積極的な評価を受け、第2回育志賞(日本学術振興会:2012年3月1日)を受賞した。また、学術研究活動表彰(九州大学:2012年3月27日)を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
信託の国際私法規則の明確化という研究目的に沿った成果を出すことができたため。また、当初の計画通り、本年度において、研究成果を博士論文としてまとめることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
「他の者に、一定の財産を託し、一定の行為をさせる」という目的を達成するための制度は、信託以外にも存在する。例えば、かかる目的の達成のためには、法人の設立や代理を用いることもできる。しかし、これらは類似の効果を生じさせる法律行為でありながら、それぞれ別個の準拠法決定規則に服する。そうすると、「これら類似の法律関係を、国際私法上いかに区別するか」という問題についての判断が、重要な意味を有することになる。この問題は、「法律関係の性質決定」の問題と呼ばれている。本研究課題後の研究においては、信託とその隣接法律関係(法人・代理等)との間の性質決定問題を素材として、国際私法の性質決定理論を深化させる研究を計画している。
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Research Products
(5 results)