Research Abstract |
鉄はほぼすべての生物にとって必須な微量栄養素であり,湖沼,沿岸域,海洋など様々な水域で藻類の主要な生長制限栄養素となっている。本研究では,環境中での藻類の鉄利用性を的確に評価するために,海洋性藻類の鉄摂取モデルを構築することを目的としている。多くの藍藻類や一部の真核生物は,摂取可能な鉄が不足する環境下において鉄と特異的に親和性のある生体由来有機物(シデロフォア)を細胞外に放出し,フルボ酸などの有機鉄錯体とのリガンド交換反応により形成された鉄シデロフォア錯体を摂取する。自然水中におけるリガンド交換反応には,二価金属,自然有機リガンド濃度,pH,塩濃度,シデロフォア生成量,また,光化学的または生物化学的還元力が鉄摂取に大きな影響を及ぼすことが指摘されている。本年度の研究では,自然有機リガンド濃度,pHおよび塩濃度に着目し,これらの条件が変化した場合に,有機鉄錯体とシデロフォアとのリガンド反応により,シデロフォア鉄錯体が形成される速度を予測するための反応モデルを構築した。自然有機リガンドのモデル物質にはフルボ酸とクエン酸を用いた。 pHが変化すると,有機リガンドと溶解性無機鉄及びこれらの錯体に,酸解離や水和による形態変化が生じる。これらの形態ごとに反応性を評価することで,pH変化を考慮したリガンド交換反応モデルを構築した。イオン強度が変化すると分子間に働く静電的相互作用の強さが変わるため,錯形成速度定数が変化する。従って,Eigen-Wilkinsメカニズムによって錯形成速度定数をイオン強度の関数として推定値することで,イオン強度変化を考慮したリガンド交換反応モデルを構築した。また,錯解離のような一分子反応には,イオン強度はほとんど影響しないことが示された。
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