2009 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属錯体の化学反応ダイナミクス:手法の開発と動的挙動の解明
Project/Area Number |
09J05442
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石川 敦之 Kyoto University, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 遷移金属錯体 / 量子化学計算 / 励起状態 / 原子移動反応 / 密度汎関数法 / CASSCF法 / クロスカップリング反応 / エントロピー |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、遷移金属錯体を含む化学反応の動的挙動を理論・計算化学を用いたアプローチにより解明することである。本年度においては、反応速度及び動的挙動の観点から興味深い反応であるイリジウム錯体とオスミウム錯体による酸素原子移動反応を対象とし、理論化学によるアプローチに基づく検討を行った。その結果、両錯体の反応速度の差異は分子の構造変化と電荷移動の双方が重要な役割を果たしていることが解明された。また、上記の反応においては溶液中の並進エントロピーを補正することにより高精度な自由エネルギーを算出することに成功したが、信頼できる自由エネルギーの評価のためには回転の相互作用も考慮する必要がある。このような回転を考慮したエントロピー補正の手法も現在開発中である。 さらに、化学反応のみならず発光現象の動的挙動の解明も本研究課題の興味深い研究対象である。本年度においては、銅・ハロゲンを含む錯体の発光過程を対象とし、CASSCF法などの多参照波動関数を用いた計算手法により励起状態の検討を行った。その結果、主に銅からの電荷移動励起状態が発光を導くことが明らかとなった。 また、上記の研究に加えて、有機・合成化学的に興味深い反応である、パラジウム錯体によるアリールのクロスカップリング反応に対する理論的研究も行った。その結果、反応系中におけるベンゾキノンの有無により反応メカニズムが大きく変化することが解明された。 以上のように、本年度では具体的な反応系を対象とし、理論・計算化学的なアプローチによりその反応メカニズムを解明した。次年度においては、本年度の計算結果に基づいた動的挙動の解明、自由エネルギー計算手法の発展などが課題である。
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