2011 Fiscal Year Annual Research Report
気泡核生成現象解明のための大規模分子動力学シミュレーションシステムの開発
Project/Area Number |
09J05452
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
高橋 和義 慶應義塾大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 分子動力学 / 長距離相互作用 / 大規模並列計算 / Isotropic Periodic Sum(IPS) / IPS/Tree / Linear combination based IPS(LIPS) |
Research Abstract |
本研究は,分子シミュレーションにおいて必要不可欠な分子間相互作用,特にクーロン力のような長距離相互作用の計算に注目し,現存する相互作用計算手法よりも高速な新たな計算手法を開発すること,またそれを用いて大規模系における核生成現象のシミュレーションを行うことを目的とする.多くの分子シミュレーションではその計算系に周期境界条件を仮定する.この周期性を利用して,長距離相互作用をフーリエ級数が含まれた表式に書き下すことで計算の効率化を図る手法をEwald法とよぶ.これは現在最もよく用いられている長距離相互作用計算手法である.しかしフーリエ級数の計算は近年の大規模並列計算においては通信の負荷が大きく不向きであるとされる.そこで報告者は,長距離効果を近似的に取り入れることでフーリエ級数の計算を行わずに長距離相互作用計算ができるIsotropic Periodic Sum(IPS)法に注目した.2010年度の研究成果から,報告者は大規模並列計算に特化した新規手法であるIPS/Tree法の計算精度についての成果を1編の論文として投稿し,掲載された.その一方で,2010年度の研究成果はIPS法の持つ根本的な問題点とその物理像を明らかにした.IPS法のひとつであるIPSn法は,極性分子のバルク系において強いカットオフ依存性をもたらす.この問題を解決したとされたIPSp法は,極性分子の気液界面系において,界面構造を再現しない.IPSn法の問題点はカットオフ境界における塊界条件の不足が原因であり,この原因に対してIPSp法は遮蔽電荷を用いて解決しようとした点に問題があった.これらの問題点を解決しない限り,IPS/Tree法は大規模並列計算に特化した新規手法としての価値を十分に満たさないと判断した.そこで報告者は2011年度の研究方針を転換した。具体的には,IPS法の根本的な問題点の背景にある物理像を参考に,基本概念レベルでの改良を加えた新規IPS法であるLinear combination based IPS(LIPS)法を開発した.このLIPS法は従来のIPS法が持つ問題点をすべて解決した.その結果は第25回分子シミュレーション討論会において発表された.またこの成果は1編の論文としてまとめられ,現在投稿中である.
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Research Products
(4 results)