Research Abstract |
本研究の目的は,バスケットボールのフリースローを対象として,暗黙的な失敗(シュートミス)の原因を可視化し,その失敗に至るプロセスをモデル化することである.選手が失敗を引き起こす前に,その前兆を獲得しやすい立場である指導者へのフィードバックを考慮し,客観的な眼(指導者)から獲得しやすい運動学変量(身体運動の状態)に基づいた要素と,その要素の因果関係を可視化する.そこで,文脈(試技間)を考慮し,時間的および空間的遮蔽映像を用いて,熟練者と初心者群の比較によるパフォーマンス予測実験を行い,熟練者の眼球運動から有効な視覚探索ストラテジーについて考察した。その結果、熟練者は競技経験で獲得した優れた記憶をもとに,身体運動のイメージを作り,ただ闇雲に大量の情報に注目しているのではなく,特有の視覚探索パターンを用いて,効率よく視覚情報を獲得していた.熟練者の記憶情報には,バスケットボール競技経験で獲得した優れたシュート動作やボールの挙動に関する知識が含まれる.熟練者はこれらの記憶された知識を利用し,視線を向けた先の情報のみだけで予測していない,知覚の方略を用いていることが示唆された。さらに熟練者は,他者の運動をあたかも自己の運動として観察可能であることを内省報告しており,これは他者の運動を観察することによる,脳内部で生成する能動的な作用が生じていると考えられる.運動をイメージ,また運動を観察することは,脳の中枢神経系の活動からみると,実際に運動している状態に近いという,ヒトのミラーシステムの一端を示唆する結果であるといえる. 本研究では,熟練者と非熟練者を比較対象とし,暗黙的な失敗の原因をある程度可視化することができた.様々な競技レベルの選手や他種目の選手を比較対象とし,継続的に基礎データの拡充を図ることで,失敗の要素及びその要素の因果関係の探求に繋がると考えられる.
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