2009 Fiscal Year Annual Research Report
詩的言語とイメージ:ランボーにおける絵画性を中心に
Project/Area Number |
09J05829
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷口 円香 The University of Tokyo, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 19世紀 / アルチュール・ランボー / フランス近代詩 / 絵画性 |
Research Abstract |
「見者」たろうとした詩人アルチュール・ランボーの詩は、非常に強い視覚的喚起力を持つと評される。本研究はその詩の絵画性を、実際の絵画との比較ではなく、ランボーの詩表現の特質の中に見いだすことを目的としている。1年目は散文詩集『イリュミナシオン』の中の絵画性の要因を、文体論的アプローチから検討した。まず、言葉で絵画イメージを描写する美術批評および、ヨーロッパの修辞学に古代より存在する言葉で絵画を模倣する技術(エクフラシス)との比較を行った。ランボーは当時の中等教育最終学年で学ぶ修辞学に秀でていたほか、ゴンクール兄弟の美術批評を読んでいた可能性もある。ゆえに絵画イメージを言葉で言い表す表現の型を知っていたのではないかと仮定し、詩を分析した結果、ランボーは既存の表現の型を取り入れながら、その型だけを使用し、指す内容を絵画ではなく詩的イメージにすることで、絵画の物理的現前に匹敵するような現前性を詩的イメージに与え、かつ詩的言語の自律を標榜する、新しい表現効果を生んでいることが分かった。ついで、絵画的性質を文学表現に取り入れた別の表現として、19世紀前半の「ピトレスクな詩」という概念の形成に着目した。こうした詩を実践したのはロマン派詩人、とりわけユゴーである。ランボーは初期にはロマン派の影響を色濃く受けた詩を書いている。初期のロマン派的ピトレスクな韻文詩と、そうした描写を捨て、詩の新たな表現を模索した『イリュミナシオン』の散文詩の描写とはどのように違うのかを検討することで、ランボーが先行する詩人たちからどのような影響を受け、そこからいかに自らの革新的表現を創造するに至ったのかを、絵画的描写という表現の性質と散文詩という表現形態との関連を探りながら考察した。
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Research Products
(2 results)