2009 Fiscal Year Annual Research Report
中国近世北方系戦記文学の形成と伝播―華北軍事社会との関わりから
Project/Area Number |
09J05852
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
松浦 智子 Saitama University, 教養学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 北方系戦記文学 / 華北地域 / 楊家将演義 / 「五郎為僧」 / 抗金勢力 / 建文帝出亡 / 播州楊氏 |
Research Abstract |
本研究は、明代中期頃より江南で数多く上梓された北方糸戦記文字が、(1)宋、金、元歴代の華北軍事社会で如何に形成され、(2)どの様に江南社会へ伝播し、そこで更なる発展を見せたのかを考察するものである。宋代山西の英雄・楊家一門の活躍を描く「楊家将演義」(『南北宋志伝』『楊家府演義』)を研究対象とした本年度(H21)は、楊家将の話柄の中でも重要な位置を占める「五郎為僧」話柄の考察を主に行った。まず、従来文学分野での使用例の少ない法律文書を用い、南宋話本名目「五郎為僧」の楊五郎の荒法師キャラクターが、当時実在した犯罪者・逃亡軍人上がりの荒法師の影響を受けていただろう事を論証した。そして、楊五郎が五台山と密接な関係にある事に着目した報告者は、南宋の諸史書から五台山の僧兵が、靖康の変の際に北敵の金と戦う勢力となっていた事例を複数見出した。その上で、これら抗金勢力が西北系の軍人の為に作られた南宋の瓦舎で芸能化されていたことを指摘し、その影響を受け北敵契丹と戦う荒法師の楊五郎というキャラクターが出現したとの新知見を得た。本検証結果は、第四届中国古代小説国際研討会での発表を経た上で、論文「関于楊冢将《五郎為僧》故事的考察」(『明清小説研究』第94期)という形に結実した。また、上述の考察に並行して、「五郎為僧」話柄の江南での更なる発展過程を検証した報告者は、当該話柄が、明の「建文帝出亡」伝説から大きな影響を受けていることを見出した。そして、「五郎為僧」と[建文帝出亡」伝説を関係付ける紐帯となったのが、当時楊家将の末裔として有名であった西南中国播州の楊氏であったという新たな可能性を指摘した。この考察結果は、第七届明代文学年会曁明代湖南文学国際学術研討会で、「《南北宋志伝》"五郎為僧"故事小考-与"建文帝出亡"伝説之関係」として発表した。
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Research Products
(4 results)