2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代の中国に見る「不文律と成文法の架橋」―上海市の事例を中心に
Project/Area Number |
09J05922
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
佐藤 奈緒 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中国 / 地域研究 / 弁護士 / 法律扶助 / リーガル・エイド / コーズ・ローヤリング / 農民工 / NGO |
Research Abstract |
本年度は、昨年度までにおこなってきた、農村からの出稼ぎ者にたいして法律扶助を実施する草の根ネットワークにかんする追加調査の実施、研究論文の作成をおこなった。 1、「小小鳥打工互助熱線」の弁護士にたいする追加調査(2011年9月、2012年3月):2008年から継続して調査している出稼ぎ者向け法律扶助ネットワーク「小小鳥打工互助熱線」が、上海にあらたに設置したオフィスを訪問し、中核スタッフである弁護士にたいする聞き取りをおこなった。 2、資料収集:本年度までに収集してきた事例を、法律扶助研究のなかに位置づけるため、上海市図書館において、現地の新聞・雑誌記事(『中国律師』、『中国司法』など)の文献収集をおこなった。 3、研究論文の作成:昨年度までに作成した調査記録をもとにして、法律扶助およびコーズ・ローヤリングにかんする先行研究を踏まえ、草の根の法律扶助に参加する若手弁護士の参加動機についての研究論文を作成した。具体的には、熾烈な競争と階層化が進行する弁護士では、新人弁護士が草の根の法律扶助にたいして実務経験の蓄積、顧客の獲得といった経済的な活路を見いだしているという側面にくわえ、当事者である出稼ぎ者への深い同情と善意、使命感、仲間意識など、必ずしも市場原理だけに左右されない動機も強くあることを描写し、中国の法律扶助は幅広い動機をもつ多様な弁護士を包含していることを示した。今年度中の投稿にはいたらなかったが、第一稿はすでに完成させた。修正をおこない来年度中の投稿をめざす。 中国の法律扶助をめぐっては、従来は、経済格差拡大にともなって生じた法サービスへの需要をいかに満たすかという、数量的な需要拡大という視点からの研究が主たるものであったが、本研究では成文法の担い手たる弁護士の主体性に着目し、成文法がインフォーマルセクターに普及していく実態を捉えることができた。法律扶助の事例研究としても重要な意味をもつと考えている。
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