Research Abstract |
本研究の目的は,教室における子どもの挙手行動が「教室という社会」においてどのように発現するのか,そのメカニズムを検討することである。本年度は,以下の2つの視点から研究を行った。 1つは,学級経営の視点から,学級内での挙手行動の位置づけに関する検討であった。新学期の4月から学級が醸成されていく過程において,授業中における挙手がどのように位置づけられ,それに対して子どもがどのように適応していくのかを検討した。小学校2年生を対象として,挙手に対する子どもの認識と実際の行動の関連を検討するため,教室内での授業ルールに関する自由記述によるデータ収集を行った。その結果,教室内でのルールとして,発言の際に挙手する,返事をするなどの「発言ルール」,友達や先生の話をよく聞くなどの「聞くルール」,教えあいや助けあいなどの「協調・協同ルール」の3つの授業ルールが見出された。 もう1つは,教師と児童の相互作用の視点での挙手と指名の関連の検討であった。教師と子どもの関わりという観点(近藤,1994)から,教室授業場面における「教師の発問-子どもの挙手-教師の指名」という一連の相互作用に限定し,小学校2年生の2学級の算数授業を対象に授業撮影を行った。研究協力者の教師2名は,それぞれ若手教師(教職歴2年),中堅教師であった。教師の指名行動の傾向を検討するため,発問の分類および発問後の教師の待ち時間(Rowe,1986)を分析の指標とした。その結果,対象教師の経験による差の影響もあるが,発問後の待ち時間は,子どもの発言を引き出すという意味においては重要な変数であることが示唆された。しかし,発問あたりの待ち時間が長くなることで,授業中の時間的空白も長くなり,相互作用が減少する可能性も考えられる。 以上より,本研究は,教室授業場面に限定されたものではあるが,挙手行動が教室の授業ルールといった学級規範や教師の授業方略に関連していることが示唆された。
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